Jリーグの『階層化』を支持する


 Jリーグは、今のところ「優勝にしか価値を見出せないリーグ」となっている。


「価値」とは、つまりリーグに参加する意義。クラブの、あらゆる意味での価値向上。優勝することでタイトルがつき、しばらく「王者」と呼ばれることになる。「優勝チーム」のハクは、少なくとも観客動員数(=入場料収入)や注目度アップ(サッカー専門誌等におけるパブリシティ)という点において大きい。


 一方でJリーグは、階層が「ない」ことになっている。「まずはリーグ残留を目指す」という言葉が表立って聞こえないのは、多くのチームが戦力的に拮抗しているから。しかし、前年度2位のチームが今年度は降格争いに参加するというのは、単なる「戦力の拮抗」だけでは説明がつかない。明らかに、そこにはモチベーションの有無が関係している。リーグ残留に向けてケツに火がついたチームが、目標のない中位チームを「食って」しまう(例、最近のC大阪、福岡)のは、リーグ残留に向けたモチベーションがチームに力を与えているからに他ならない。

 ということは、リーグ活性化のためには、「優勝」以外の価値を与えることが有効。具体的には、リーグ2位以下にも何らかの大会出場権を与える、等のことだ。UEFAチャンピオンズリーグと同様、AFCも将来的にはアジアチャンピオンズリーグACL)の出場枠を3位以内に拡大するなどの措置を取るべきだと思う。


 だが、それは一応「他力」の話。それよりは、まずJリーグにおける階層をハッキリさせるほうが良いと思う。ここで、昨日のエントリー『浦和レッズチェルシー、真の共通点http://d.hatena.ne.jp/KIND/20061112/p1』に話が繋がる。要は、浦和がACLで優勝し、クラブW杯出場を果たし、「ACL優勝=メディア的な付加価値=それなりの放映権料収入」などが確保されれば、Jリーグは新しい時代を迎えると思うのだ。


 雑感として、J1は現在以下の4階層に「やわらかく」分かれていると思う。


[1]「優勝できるクラブ」
[2]「優勝争いできるクラブ」
[3]「残留争いに絡んでもおかしくないクラブ」
[4]「残留争いが濃厚なクラブ」


 [1]と[2]には一線があり、[2]と[3]の境界線、[3]と[4]の境界線は薄い。しかし、[3]が[2]になることはあっても[1]になることはほぼ無理。同様に、[4]が[1]になることはほとんど不可能。


 開幕から13年経ち、クラブ間の財政規模にも差が生まれた。さらに昨シーズンからは、1シーズン制が採用された。つまり、年々番狂わせが起こりにくくなる。昨年C大阪が最後まで優勝争いに絡んだが、あれは下村東美が認めるように「運が味方してくれた」もの。味方してくれなかった今年は、残留争いをしている。34試合という長丁場の中では、継続的に力を発揮できる土台(≒資金力、選手層)のないクラブは、「どう転んでも優勝は無理」になりつつある。


 その中で、浦和が「ビッグクラブ宣言」をする。「浦和は、他チームとは違う」という。そうなることで、自ずと他チームの意識も変化する。「浦和を止める」という意識を持てども、その資格があるチームも限られてくる([1]、[2])。一方で、優勝争いできるクラブに大量失点を喫し、現実的には残留争いが濃厚なクラブがある([4])。そして名古屋、FC東京、大宮、広島といった[2][3]の中間層を行ったり来たりするチームもある。


 親会社に頼らない浦和が、財政的に破綻する可能性は低い。この境界線は、年々濃くなっていくことが確実。現在ではハッキリしない階層も、年を経るごとに明確化するだろう。それが自然だと思うし、「そうでない」と主張するのは不自然だと思う。


 それよりも、[2][3]の層があることを顕在化させ、「そこに新たなモチベーションが必要だ」と広く認識させることが重要になる。浦和がACLで優勝し、クラブW杯で一定の“成果”を収めることは、Jリーグに大きな変化を与えうる。それは、これまで分かりにくかった従来の階層から、「ACL出場を目標にする層」という「優勝とは別のモチベーションを持つチーム」を登場させることに繋がる。


 野茂英雄のメジャー移籍以降、日本のスポーツファンは「“世界”が見えない戦いに興味を示さなくなった」といわれる。WBCの盛り上がりとプロ野球の盛り下がりは顕著な例だし、スケートの荒川静香浅田真央人気にしても“世界の舞台”だからこそ。サッカー日本代表Jリーグの視聴率の差も、“世界”の有無があるといって差し支えないだろう。Jリーグの場合、地域密着で進めていく戦略を取るわけだが、それでもやはり「“世界”」へ繋がる道は欲しい。日本代表はW杯に三度出場しているわけで、Jのチームが世界の舞台に上がっていけない理由なんてないはずだからだ。


 現状、ACLの注目度は低い。日本勢が優勝しない限り、報道的な価値はほとんどない。一方で、人気の高い浦和がACLで優勝すれば、クラブW杯を無理矢理プッシュしているFIFAとメディアに大きなメリットを与える。開催地を日本に固定したい、という思惑が見え隠れする現状ならなおさら。そしてJのクラブにとっても、「ACLを突破すれば世界に繋がる」=「クラブの価値向上」となれば、モチベーションの向上は計り知れない。


 そういう意味で、来シーズンの浦和が「どこまでやれるか」は、Jリーグを確実に変化させる契機になる。もちろん、まずは浦和が今シーズンの優勝を決めてからの話だが。

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