浦和レッズとチェルシー、真の共通点


 浦和レッズは、異質なチームである。


 すでに大住良之が指摘しているが、浦和はあれだけの絢爛豪華なメンバーを揃えながら、徹底して「実」を取るサッカーをする。3バックは深いゾーンを取り、田中マルクス闘莉王の攻め上がりは鈴木啓太がカバーし、あくまで「中央に3枚以上」という守備陣形を崩さない。相手にボールを保持させ、ハーフライン付近からプレッシングを開始。中盤で囲い込んでボールを奪い、ポスト成功率が非常に高いワシントンにボールを当て、ポストにこぼれたボールを拾ってカウンター。スピードのある三都主アレサンドロがサイドで基点を作り、トップ下で動き回る山田暢久、2.5列目から攻めあがる長谷部誠、巧みなポジション取りをするポンテを使って中央突破を図るか、サイドから早めに放り込んでワシントンの得点力を活かす。つまり、「守備を固めてハーフカウンター」が第一戦略。


 それができないときに初めてボールを回す。が、このボール回しがまた上手い。個々のスキルの高さがあり、呼び込む動きがあり、それでいて詰まったらワシントンという武器がある。つまり浦和はポゼッションサッカーも選択できるし、一発のカウンターでも得点を狙いにいける。だが、プライオリティはあくまで守備にある。


 分かりやすく言うと、G大阪や川崎などが前線のタレントを生かして「先手必勝」を狙うサッカーなのに対し、浦和は「後手必勝」ともいうべきやり方を取る。特に川崎は、かなり高い位置からのプレッシングで後方のスペースを使わせないのに対して、浦和は後方のスペースそのものを消し、相手を呼び込んでから仕留める。こういった戦略は普通、個の能力で対抗できないチームが行うものだが、浦和は「水を漏らさない」という目的のみで行っている。だから堅い。第30節を終えた失点数は25と、1試合平均1失点を切りJ1最少。2番目に少ない清水エスパルスが35だから、その数字がいかに突出しているかが分かる。


 さて、ここまで書いた浦和の特徴について、我々は非常に良く似たチームを探すことができる。イングランド・プレミアリーグで2連覇中のチェルシーである。チェルシーもやはり「ポゼッションできる」にも関わらずハーフカウンターを選ぶ、「実」を取るチーム。一昨シーズンの成績は38試合29勝8分1敗、得点72失点15。そして昨シーズンの成績は38試合29勝4分5敗、得点72失点22である。いずれのシーズンでも、失点数は1試合平均1失点以下だ。この成績は、浦和の今シーズンのそれと非常に似た傾向を持っている。


 この「戦い方」を持って浦和を「チェルシーのようだ」と評する人は多い。しかし、真の共通点はそこではない、と思う。浦和が狙っているのは、間違いなく「世界クラブ選手権の出場権獲得」だからだ。これはイコール、アジアチャンピオンズリーグの優勝。チェルシーにおけるUEFAチャンピオンズリーグの優勝に置き換えられる、「現時点での最高到達点」である。


 浦和とチェルシーの共通点は、「現時点での最高到達点を狙っている」という1点に集約される。だからこそ、「通過点」たるJリーグでは取りこぼしが許されない。主戦場はあくまで来シーズン以降のACLであり、最速で来シーズン末に開催予定の世界クラブ選手権である。そうなったとき、失点をしない戦い方を選択するのは、戦略上極めて自然なことだといえる。共通しているのは目標であって、試合戦略は「自然と似通った」と見るほうが自然だ。


 今後、浦和はすべてのシーズンにおいて、アジアのカップ戦、国内リーグ戦、カップ戦に天皇杯と最低4つの大会を戦う腹積もりでいる。だから、2チーム分の戦力を保有することは当然のこと。小野伸二の浦和復帰も、ワシントン・ポンテというワールドクラスのプレーヤーの保持も、Jやナビスコカップ獲得を目指したものではない。2005年の入場料収入が16億、広告料収入が19億という財政規模、収益の安定性(放映権料収入はJから一定額しか入っていない=バブルではない)から考えても、浦和は名実ともに「ビッグクラブ」である。


 また、クラブ首脳は「そう振舞うことが相応しい」と考えていることも、犬飼前社長(現Jリーグ専務理事)の言動からして明らかだ。

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/jtoto/column/200601/at00007472.html

この1年間で、来年のACL(アジア・チャンピオンズリーグ)に出る準備をきちんと整えて、参加するのではなくてタイトルを獲る準備の期間に充てたいと思っております。


 浦和以外のサポーターにとって、あまり重要なことには思えないかもしれない。しかし、Jリーグにおいて「世界クラブ選手権の出場」を明確な目標として置いたチームは、2001年のジュビロ磐田以来2チーム目だ。そして自らをビッグクラブと自負し、それに相応しい行動を取るチームは、Jリーグ開幕時のヴェルディ川崎以来ではないか。


 他チームのサポーターにとっては全く面白くないことだが、個人的には浦和の試みがどこまで成功するかを見届けたい。今シーズンのJリーグを「通過点」とする浦和は、実際に優勝をほぼ手中にした。来シーズンのACLにおける戦いぶりと、それに伴って発生するであろう浦和サポーターの意識の変化、補強策の変化、プロモーションの変化、そしてそれを見守る我々の視線の変化などは、親会社に頼らないという意味で初の「ビッグクラブ」と呼べるチームが誕生する過程となるだろう。


 浦和が自らをビッグクラブと「宣言」したとき、Jリーグは新時代を迎える。ポジティブであれネガティブであれ、その変化は、これまでフラットに見えたJリーグの「階層」をさらけ出し、Jリーグに新たなダイナミズムを加えることになる。「変革」とも呼べるそれらの変化が、今から待ち遠しくて仕方がない。

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