インド戦分析(上)


 真の主役についてはすでに書いたので、ついでに(笑)試合のことも書いてしまおう。

苛烈な日程問題


 ところどころ赤土が露出するピッチコンディションの悪さ。4日にガーナ戦をこなした選手たちは再びクラブに戻り、7日にJリーグをこなし、8日に移動。実質的にトレーニングできたのは9日と10日の2日間のみ。さらに前日練習では、試合会場のコンディションが悪条件のため使えなかったこと、さらにメンバーを2人入れ替えたこと(播戸竜二中村憲剛が初スタメン)。


 肉体的にも大変なことだろうが、何より中2日でリーグ戦、中3日で再び代表という頭の切り替えが要求される。そういう条件下で行われた試合だということを考えれば、何もかも上手くいくと考える方が不自然だ。そういう中で考えれば、まずは選手たちはよくやった、というべきだろう。インドに勝つことが当たり前ではない、というのは、付帯状況も頭に入れてのことである。


 ちなみに、日程については頭に入れておくべきことがある。なぜこういう日程になったのか。これは、国際Aマッチデーである7日にJリーグが組まれていたため、ウィークデーの4日にガーナ戦を行わざるを得なかったことに直接の原因がある(このため、オシム監督はガーナ戦に海外組を呼べなかった)。


 もっとも、「7日にリーグ戦を組んだことが悪い」とするのは早計。この日程になったのは、後日天皇杯とのバッティングで会場が確保されない可能性があったためかもしれず、単純に機構側の不備とすることはできない(現に6日に京都vs.大宮戦が行われた理由は『会場が確保できなかったため』であった)。リーグ戦の日程を簡単にずらすことはできない。ならば「天皇杯を廃止せよ」「欧州と同じ秋春制を採用せよ」という意見が出てくるが、議論百出してなお結論の出ないそれらの課題にスペースを割く余裕はないので割愛させて頂く。


 とはいえ、選手にとって苛烈な日程が続いているのは確かだ。J1第27節は、インド戦から中2日・中3日となる14日・15日に行われる。最終ラインの水本裕貴が負傷退場、山岸智も後半に不調を訴えた千葉は、14日に強豪鹿島とのアウエー戦を控えている。祖母井GMの退団などが報じられる中、「踏んだり蹴ったり」とはまさにこのことだろう。


 日程問題の解決は急務だが、Jリーグのチーム数は急には減らせない。スポンサー絡みのナビスコカップとA3、キリンチャレンジカップAFCマターのACLなどは、どれも簡単には動かしづらい。オシム監督は当然のように日程の改善を要求するだろうが、JFAにどれだけ対処が可能か。われわれも「試合数の緩和」を要求するだけでなく、具体的な日程改善案を用意してみる必要がある。それは、あるいはスポンサーへの不買運動へと繋がっていく可能性すらあるのだが。

得点経過


 話が少しそれた。インド戦についてである。


 得点経過については、簡潔に止めたい。前半23分、左サイドでボールを受けた三都主アレサンドロのグラウンダークロスに対し、ニアサイドの巻誠一郎が左足で反応したが空振り。ファーサイドに流れたところを、詰めていた播戸竜二が右足で押し込んだ。


 さらに日本は前半44分、右サイドに流れた三都主の右足クロスを、ニアサイドに飛び込んだ播戸が頭でコースを変え、GKのニアサイドをついて決めた。クロスが上がるまでDFの背後にポジションを取り、タイミングよくDFの前に飛び込んだ播戸の動きの質、さらに相手DFの足元に突っ込んでいく勇気が生んだ、意外性あるゴールである。


 その後日本は前半終了間際に水本が負傷交代。これにより鈴木啓太が最終ラインに入った。後半は攻めあぐねたが、後半37分、ペナルティーエリア前でこぼれ球を拾った中村憲剛が、右足インステップで強烈なミドルシュート。足をコンパクトに振り抜いた一撃は、GKの反応より早くネットに突き刺さった。スコアはこのまま動かず、日本の完勝に終わった。

匕首を突きつける」中村憲剛


 ただ、日本が3点を奪ってインドから勝利したことは、それほど特筆すべきことではない。インドは開始から4−4−2のフラットに近い形で前線と最終ラインの距離を縮め、日本の中盤に対しプレッシャーを掛けてきた。しかし、プレスのタイミングが特別早いとか、当たりが特別厳しいということはない。またボールを奪っても、単純なミスで再び日本にボールを渡すシーンが多かった。このクラスの相手に「何ができた」ということは、それほど強調すべきことではないだろう。


 それでもあえて収穫を挙げるとすれば、まずは播戸竜二の得点感覚である。1点目にせよ2点目にせよ、身体が準備できていなければ反応できるものではない。特に2点目は、負傷している頭部を、再び相手の足近くに投げ出した勇気あるプレーだった。これらはすべて、予測あってこそのプレー。急にボールが来たので」という言葉は、播戸の口から出ることはない。代表のスタメン争いに食い込んでくることは、十分可能だと思わせるプレーだった(広島サポとしては、佐藤寿人の選考漏れを危惧する必要が出てきたが……)。


 もう1人特筆すべき動きを見せたのは、中村憲剛である。川崎で見せるダイレクトプレー(ゴールに直結するプレー)を常に意識し、ワンタッチで相手の薄いところを突くスピーディなパス回し、持ち前のミドルシュートで何度もアピールをした。


 これまで日本が抱えてきた問題の一つに、フィニッシュの前でボールタッチ数が多すぎることがあった。特にそれは遠藤保仁に顕著で、彼のところでボールが短くなり、全体のリズムがスローダウンするケースが目立った。ところが中村にはそれがない。常に首を振り、確実に状況確認を済ませ、ボールを受ける前には相手の穴を見つけている。その「穴」めがけ正確にパスを出す技術もさることながら、相手に常に匕首を突きつけ続けるような存在感はこれまでの代表MF陣には稀有なもの。90分間プレーし続けたことは、オシム監督からの評価の証として良い。今後、レギュラーとして台頭する可能性は十分にあるといえる。


<後半に続きます!>

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