お箸は食べ物ではない
インド戦当日ですが、最近続いている「トータルフットボール」、「ポリバレント」の議論の続きを。自分として、より分かりやすい語り口が浮かんだのでメモします。(これまでの議論は以下を参照してください!)
オシムと、スペシャリストと、ポリバレンスと(1) - KINDの日記@はてな
オシムと、スペシャリストと、ポリバレンスと(2) - KINDの日記@はてな
トータルフットボールを考えてみる(仮) - KINDの日記@はてな
最近、オシム監督のコンセプトで「ポリバレント」という言葉が良く使われるようになっています。きっかけは恐らくスポーツナビに掲載された宇都宮徹壱さんの「ポリバレントという光明」というコラムだと思います。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/column/200610/at00010831.html
過去のオシムの発言から類推するに、彼がいう「ポリバレントな選手」とは、どのポジションもソツなくこなす「器用な選手」という意味ではなさそうだ。そうではなくて、優れた応用力と順応性を持ち、さまざまな事態に対処できる選手、というのがより実相に近いだろう。そしてそれは、単に相手の出方に対応するだけでなく、初めてコンビを組む味方に対しても、定位置にこだわらない効率的なプレーができる能力ではないだろうか。
全くその通りだと思うのですが、「読まれ方」としてポリバレントという言葉が独り歩きしている印象を受けます。オシムがどういう文脈で「ポリバレント」と語ったか判りませんが、オシムがどう語ろうと一つだけ変わらない事実があります。「手段が目的に勝ることはない」ということです。
ポリバレントとは、手段です。「定位置にこだわらずプレーできること」は目的ではない。目的は別にある。オシムの場合、それは「理想のチーム像」。本来、その目的に沿って議論を進めなくてはならない。
分かりやすい例を出しますと、サンフレッチェ広島のDFラインです。現在、サンフレッチェは3バックの左からダバツ(盛田剛平)、戸田和幸、森崎和幸という3人を並べています。彼らは全員「本職」ではありません。本職の選手は、ほかにいます。しかしミハイロ・ペトロビッチ監督は、3バックに「最終ラインからのビルドアップ」という「目的」を求めている。そこからすると、彼ら3人が最も適しているわけです。彼らが「ポリバレント」だから選んでいるのではなく、「そこをやった方がいい」から出場させているに過ぎない。これが議論の第一段階。
そして、本職じゃないからこそのミスも当然ある。甲府のビジュも本職でないCBですが、彼も最終ラインで不用意なターンをしてボールを失ったりという「本職にはありえないミス」をすることがある。そういったマイナス部分とプラス部分をチームコンセプトとトレードオフして、プラスマイナスを判断する。これが議論の第二段階です。「ポリバレントだから良い」「ポリバレントじゃないからダメ」という話は、第一段階にもたどり着いていないと思います。
オシム監督の場合も、この話と同じだと思うのです。あくまでオシム監督のコンセプト、「ピッチ上の選手に求めること」が先にある。今野泰幸が左CBで出場したのは、オシム監督のコンセプトにおいて山口智や青山直晃より相応しいと判断したか、あるいは適性があるか「テストした」(テストマッチですよね、ガーナ戦は)か、はたまたガーナ相手には今野が相応しいと判断したか、いずれか。今野がポリバレントかどうかは、二次的な要素です。田中マルクス闘莉王や坪井慶介より今野が「オシムのコンセプトに近いかどうか」、それは現時点では判断できないだろうというのが僕の考えです。
ま、そういうことです。例えばパスタを食べるのにフォークという手段を使うか、お箸という手段を使うかはどちらでもいい。ですが、「どちらが食べやすいか」は監督の好みです。お箸は食べ物じゃありません。通念として「パスタはフォークのほうが食べやすい」と思われてますが、パスタの種類によってはお箸のほうが食べやすかったりするかも。目的は「パスタを食べること」です。でも、お箸でうまく食べられなかったら、それはお箸を使った監督の責任ですよ、となります。これが「牛丼」「ステーキ」「お寿司」ならどうか。お箸よりフォークよりスプーンを使ったほうがいいんじゃないの、という話になります。
ポリバレントかどうか、ではなく、「何を使って食べるか」を忘れずに。それでは、今日のインド戦を楽しみにしましょう。
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