J1第26節磐田vs.G大阪分析(下)

西野朗の誤算


 後半開始から、試合は動きを増した。ハーフタイム、G大阪が前田雅文を諦め、家長昭博を投入したからだ。家長は前節甲府戦でも途中から投入され、得意のドリブル突破で左サイドに基点を作り、次々とチャンスメークをした(参照:J1第25節甲府vs.G大阪分析)。


 しかし、磐田のアジウソン監督は、甲府の徹を踏まなかった。すかさずボランチの菊地にマンマークを命じ、ゾーンマークとマンマークを使い分けながら右サイドのスペースを封じた。これにより前方のスペースを封じられた家長は、時折切れ味は見せるものの前節ほどの活躍はできなくなった。


 一方で、磐田のカウンターはいよいよ鋭さを増す。59分、中盤で遠藤からボールを奪った太田がそのままドリブル。アタックに来たシジクレイをワンタッチでかわしてカットイン、カバーに入った宮本をワンフェイクでかわすと、思い切り良く右足を振り抜いた。このボールは惜しくもクロスバーを直撃するが、磐田にはこのあたりから「いつでも点を取れる」雰囲気が漂い始めていた


 G大阪の西野監督は59分、家長がさほど「効かない」のを見て、右サイドにポジションを移した橋本英郎を下げ、寺田紳一を投入する。しかし、結果的にはこの交代は不発に終わった。本来求められるべきアウトサイドへの大きな動きを見せられず、寺田はボランチのような低い位置でボールを散らすだけ。さらに投入直後、寺田は自陣エリア付近で不用意なパスを服部に奪われ、前田のシュートを誘発するなど散々な出来。


 右サイドを効果的に使うことで、左サイドに集中しかけたマークを薄くし、家長をより活かす攻めを模索した西野監督にとっては、誤算であったに違いない

個人技で2得点を返すが……


 しかし、それでも得点を奪うのがG大阪のすごさ。64分、家長が左サイドからエリア内に向けてカットイン。マーカーの菊地とファブリシオの間にできた「門」を抜けていく巧みなドリブルで、ペナルティーエリア付近やや左という絶好の位置でファウルを誘う。


 このファウルで得たFKを、遠藤保仁が狙い済ましてシュート。ボールはそれほど強い球ではないように見えたが、GK川口の頭上から降ってくるような弧を描いてネットに吸い込まれた。TVでは確認できなかったが、ある種の変化が掛かっていたのかもしれない。


 これで勢いづいたG大阪は、一気に攻勢を掛ける。菊地にピッタリとマークされた家長は、ある程度封じられていても、ボールを持つとやはりスーパー。71分には、同様に左サイドからカットインして4人を引き付けると、ゴールに背を向けながら右足アウトでファーストポストの播戸竜二にパス。播戸はワンタッチで流すと、受けたマグノ・アウベスがDFを切り返しで外し強烈な右足シュートでGK川口を襲った。


 その後も85分、交代出場のフェルナンジーニョのCKから山口がフリーでヘディングを放つなどチャンスを迎えるが、どうしても得点できない。

2つのドラマ


 しかし終盤、ドラマが待っていた。89分、磐田が守備固めとして太田を下げ茶野隆行を投入した直後のこと。ペナルティーエリア付近でスローインを受けたマグノ・アウベスが、鋭い反転で菊地のマークを振り切り右足シュート。GK川口が何とか弾くものの、こぼれ球をシジクレイが頭で押し込みついにG大阪が同点に追いついた。


 G大阪は、切り札である家長を菊地、さらには75分に投入された犬塚友輔に徹底マークされ、両サイドがうまく機能しない状態に置かれ続けた。それでも、このゴールシーンのように、最後は個の力で局面を打開するタレントがいる。首位争いに絡み続けるG大阪の底力を見た


 だが、試合はもう一つのグランドフィナーレを用意していた。G大阪の同点弾からわずか数十秒後。右サイドでこぼれたボールを拾った犬塚がドリブルで持ち込み、カバーに入った遠藤をフェイントでかわしてクロス。このボールを、ニアサイドに突っ込んだ前田遼一が右足で押し込んで、劇的な決勝弾を挙げた。


 途中投入されたとはいえ、犬塚の役回りは家長のマーク。そのマークを捨て、さらに1対1で果敢に仕掛けて決勝アシストをした、犬塚の集中力には驚くべきものがある。前田にやすやすと前に入られたG大阪のマーカーが、最後まで機能しなかった寺田だったことも、G大阪のちぐはぐさを象徴しているように見えた。結局、試合はこのまま磐田が逃げ切った。

充実の磐田、台風の目になるか


 磐田は、序盤こそ相手の勢いに押された。2点リードした後半も、家長やマグノ・アウベスの個人能力で突破される局面があった。それでも菊地、途中から犬塚のマンマークで家長の突破力をある程度封じた。さらに後半ロスタイムに追いつかれながら、その直後にリスクをおかして勝ち点3をもぎとった。チームのモチベーションは、非常に高い。他の選手や監督の証言からも参照できるように、アジウソン監督は着実にチームを掌握している


 この勝利でここ5試合で4勝1敗、17得点8失点という結果に繋がった。やや失点が多いが、川崎とG大阪の個人能力で奪われたものが多く、決定的に崩された形は少ない。田中誠を中心とした守備は安定しており、絶好調の太田吉彰を基点とするサイドアタックはどのチームにとっても脅威。この「主導権を握るリアクションサッカー」は、今後リーグの台風の目となる予感がある

息切れの気配漂うG大阪


 一方、G大阪はこれで2連敗。首位浦和に勝ち点3差をつけられた。しかも2試合ともかなり不用意な形で失点を許しており、安定した浦和の守備と比べるとやや息切れが見える。さらに2敗はいずれも加地亮を欠いたもの。右サイドを埋めきれず、選手層の差が出たともいえる


 今後G大阪は、横浜FM、清水、鹿島、千葉といった強豪との対戦を残している。一方浦和は上位陣の対戦は川崎くらいで、あとは難敵磐田、甲府といったところ。日程としては、浦和のほうが有利。第34節には浦和とG大阪の直接対決があるが、そこまでにG大阪が息切れをしないかどうか。引き分けにできたはずの今節の敗戦で、G大阪にとっては今後に向けて暗雲が漂ってきた

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