「オシム弁護」(カッコおしむべんご)


 毎回楽しく拝見しているdorogubaさんのコラムで、ガーナ代表戦の日本代表を指して「トータルフットボール懐疑論」という興味深いエントリーがあった。


 さらに、次の投稿では「ジーコ日本代表は「ロックを感じるチーム」とすれば、オシム日本代表は? 音楽とサッカーのくだらない話」というエントリーがあって、こちらも興味深く拝読している「UOLAVLOS Blog」さんへの言及が面白いけれども、そこまで音楽に詳しくない自分はこちらには触れないことにする。


 毎回のことながらdoroguba氏のエントリーは示唆に富んでおり、読み手の思考をかくはんし、整理する力のある文章だと思う。ただ、毎回同意しているとは限らない。今回は、doroguba氏のエントリーに対し、客観状況を踏まえたうえでの「オシム弁護」(カッコつき)を試みたい

鈴木啓太がふつうに3バックの右としてプレイしていたことに対する「怖さ」
同じく後半にDF水本が攻め上がったシーン。右サイドでガーナにボールを奪われてカウンターを食らい、最後は阿部がペナルティエリアラインのギリギリ手前でファウルして止めんですが、その場面を覚えてますでしょうか? その時の最終ラインの3人は「阿部、今野、鈴木啓太」。DF水本が攻め上がったのを受けて鈴木啓太が淀みなく最終ラインにポジションチェンジしていたんですが、この鈴木啓太カバーリングはすばらしかったと思います。すばらしかったというか、チームとしてのお約束だったんでしょう。その鈴木啓太の状況判断はすばらしいと思うのですが、ただ、あまりにも「当たり前」にカバーリングが行われていたことに、逆に怖さを感じてしまったんですよね。基、カバーリング自体は何の問題もなくすばらしいのですが、カバーリングしたあと、鈴木啓太がふつうに3バックの右としてプレイしていたことに対する「怖さ」とでも言いますか。鈴木啓太が3バックでプレイすることが「特殊なこと」でなく、なんとなく「仕様」となっているように感じたんですよね。


 仰る意味は非常によく理解できているつもりですが、やや「試合の状況のみ」に焦点を絞りすぎている気がします。僕は、もう少し試合に付帯する状況も考慮すべきではないかと思う。


 これまでのオシム日本の客観状況として、次のことがいえます。

  • 8月9日の緒戦から2カ月も経っていない
  • 8月9日の緒戦はG大阪と千葉の選手が不参加
  • 8月16日の第2戦はいきなり公式戦
  • Jリーグは8月19日から30日まで中3日開催
  • 9月3日の第3戦、6日の第4戦はアウエー公式戦
  • 準備期間は選手の移動日含め、1試合に3日程度
  • テストマッチはガーナ戦が2試合目
  • 田中マルクス闘莉王坪井慶介加地亮が負傷欠場
  • 10月1日に甲府vs.G大阪、清水vs.福岡が開催(ガーナ戦まで中2日)
  • 10月6日に京都vs.大宮が開催(ガーナ戦から中1日後)


 オシムが平然と招集日当日のトレーニングをやったりして慣れっこになってるかも知れませんが、冷静に考えてこれは相当にタイトなスケジュールです。ジーコ時代と比較しても、就任から1週間足らずで公式戦というのは、かなり条件が厳しい。しかも今回の相手は、個人能力が尋常ではないベストメンバーのガーナ。ここまでくれば、選手も監督もアップアップでしょう。


 この日程、この状況で監督ができることといえば「選手の意識付け」、選手たちがやれることといえば「監督の要求を満たすこと」でしょう。というか、それ以上何ができるの?、と思います。

今のオシム日本代表は「ポリバレント」を重視し過ぎで、逆に「スペシャリスト」がいない気がするんですよ。中盤もできるし、最終ラインもできる、状況に応じて前線にも顔を出せるし、サイドでもプレイできるやつがチョイスされ、1部を除いて全ポジションできるように仕込まれてますが、なんちゅうかその流動的なポジションチェンジするしぐさに「器用貧乏なイメージ」を感じてしまうんですよね。「トータルフットボール」というものを、ちょっと甘く考えているように感じるとでもいますか。


 今回欠場した闘莉王、坪井、加地はどうだったでしょうか? 彼らは、本来のポジションで「スペシャリスト」としてプレーしていたのではないでしょうか。状況に応じて上がることはあっても、基本ポジションには必ず戻っていた。闘莉王ですらそう。


 彼らが欠場したこの試合は、「スペシャリストがいない気がする」どころか、完璧に「いない」んですよ。ガーナ代表の平面的なスピードに対抗しうる坪井が欠け、高さで対抗しうる闘莉王がいない(それも、負傷が判明したのは9月30日時点で、オシム監督は次善策を講じざるを得なかった。それが今野泰幸のCB起用であり、鈴木啓太が時にバックスに入ることであり(過去の試合でもありましたが)、2シャドーが4バックの両SBについていくシステムの採用でしょう。


 色々考えていけば、ガーナ戦の日本代表は「次善策のチーム」としか思えない。つまり、オシムは「スペシャリストがいれば使っている」から。


 dorogubaさんの危惧は、試合を正確に分析されているからこそ生じるものだと思います。僕も、広島サポとしては危惧を感じた試合でした。エリア内が本職であるはずの佐藤寿人が、勝手にポリバレンスを買われ、サイドで守備に奔走している。広島サポとして到底納得できるシーンではない。


 しかし僕はそれでも、現時点でオシムを評価するのは性急過ぎると思う。「ポリバレントという器用貧乏な選手ばかり」になるのか、「スペシャリストを今後多く採用していく」のか、それはまだオシム自身答えを持っていないかもしれないわけです。そのテストをする場はまだ2試合目なのですから。


 もっとも、dorogubaさんは「選手選考」から不満を感じておられます。それにも、ある程度同意できます。

まぁ、特にすぐれたスペシャリストがいないならポリバレントで固めた方がいいということなんでしょうが、私は次元の低いポリバントをたくさん集めるよりも次元が低くても要所にスペシャリストを配した方がいい気がするんですけどね。


 単純な話、ゴール前に巻誠一郎がいるより久保竜彦、羽生より中村俊輔、今野より松田直樹だろう、という話なのでしょう。現時点でそういう起用をしないのは、「意識付け」という部分が重要視されているだろうとはいえ、納得できない部分があります。


 ただ、何にせよ批判は少し早い。今選ばれていないスペシャリストが今後選ばれないかはまだ保証の限りではないわけですから。もう少し、少なくともあと5試合程度は見てみないと、オシムの評価をしていくのは早いんじゃないでしょうか。(実は、そういう気持ちもあって分析レポートを書いていなかったりします。「なんとかやりくりした」チームを見て、今後の参考にするのもどうかな、と)

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