J1第25節千葉vs.大分 分析(下)

 このエントリーは、http://d.hatena.ne.jp/KIND/20061004/p1 の続きです。


 後半、勝負のアヤを握ったのはミスであった。ただし、それは守備側にも攻撃側にもいえることである。


 最初にペースをつかんだのは大分だった。48分、カウンターから千葉のボランチとDFラインの間に一瞬スペースが空く。ここを見逃さず入り込んだ根本がフリーでボールを受け、ペナルティエリア約20メートルの距離からミドルシュート。アウト回転にかけてファーポストを狙ったが、惜しくも枠を外れた。


 これでペースを握った大分は54分、ついに先制点を挙げる。中盤でエジミウソントゥーリオと繋ぎ、右サイドを駆け上がった深谷へパス。深谷はフリーで受けて、狙い済ましたクロスを送ると、ボールはDFの頭をかすめ高松の胸元へ。高松は素早く右足を振り抜き、GK岡本の右を破った。


 このシーンは、ミスとバランスの崩れから生まれたものだった。大分ペナルティエリアまで引いた大分DFラインに対し、巻がプレッシャーを掛けに行く。しかし、中盤が連動して上がってきていないため、このプレッシャーは空振りとなり、逆に大分の根本、エジミウソントゥーリオという危険な3人がハーフライン前までフリーでボールを持つことができた。さらに、深谷が右に攻めあがったのは、右サイドの高橋が中に入ってスペースを空けたため。千葉のミスと、大分の「バランス崩し」が再び千葉のクリアミスを呼び、最終的に大分のゴールに繋がった。


 これにより、千葉の「バランス崩し」はより加速化する。そして、ゲームは動きを激しくし、シーソーゲームの様相を呈する。以下、両チームに訪れた決定機を列挙する。


 59分、千葉に初の決定機。DFラインからボールを持ち上がったストヤノフクルプニコビッチとワン・ツーで受けると、左サイドのスペースに走り出した山岸智へスルーパス。山岸はGK西川と1対1になったが、シュートをブロックされてしまう。


 65分、大分。トゥーリオのロングパスを高松がワンタッチで落とし、左サイドの根本へ。根本はグラウンダーパスでDFラインを斜めに切り裂き、梅崎へパス。梅崎は坂本と1対1になったが、勝負を選ばずバックパス。このパスを受けた高橋大輔が、アウト回転を掛けたミドルシュートを放つがクロスバーを直撃。こぼれ球に詰めた松橋のシュートはGK岡本にブロックされる。


 66分、大分。上記の流れからGKのスローを奪った大分が、左サイドからカウンター。根本がドリブルで切れ込み、エリア内の高松へ。高松はカバーに入った佐藤勇人を反転であっさりとかわし、GKと1対1に。しかしこのシュートもやはりブロックされてしまう。


 このうち1本でも決めていれば、試合の流れはまた変わっていた。特に大分は、決めていれば勝利を手繰り寄せることもできたはずだ。


 それにしても、両チームとも流れをつかみきれない。気圧されていないといえばそれまでだが、ミスが多すぎるということでもある。


●「流れ」不在の殴り合い


 そして、この決定機の応酬を経て、70分ごろから試合は「バランスを崩すジェフ」と「カウンターを狙う大分」の展開が明確になる。


 75分、千葉。右サイドから水野がピッチを横断するサイドチェンジを左サイドに開いた阿部へ。阿部は応対するDFに1回フェイクを掛けてタメ、ペナルティーサークル付近に走り込んだストヤノフへ横パス。ストヤノフはダイレクトで右足インサイドに当てるが、DFに当たってCKとなる。このシーンでも、DFラインからストヤノフが上がったことで、攻撃に数的優位を作れている。


 そして77分、ジェフはついに同点とする。右サイドで得たFKを水野が蹴ると、ボールはニアポストでつぶれた阿部を飛び越えて中央の結城耕造の頭へ。結城はやや前のめりになりながら押し込み、自身Jリーグ初得点となるゴールを決めた。


 一方の大分も80分、千葉DFライン付近で結城が不用意なキープをしたところをエジミウソンが奪ってカウンター。エジミウソンはドリブルで持ち上がり、DF2人を引き付け高松にラストパスを送るが、間一髪で戻ってきた坂本が背後からプレッシャーをかけたことで、シュートのタイミングを逸し得点できない。

 そして86分、千葉が勝ち越し点を奪う。右サイドで水野がドリブルを仕掛けて上本大海をかわし、クロス。このボールに対し、ファーポストで巻と競り合った深谷が巻を倒したとしてPKの判定。これを阿部がきっちりと決めて、千葉が逆転に成功。後はそのままチャンスを与えず、千葉が逃げ切った。


●ジェフの「判定」勝ち


 決定機の列挙のような形となって申し訳ない。しかし、実際に試合には「流れ」というものが存在せず、両チームともに決定機をつかみ/与え、決めたか決めなかっただけの差のように思えるのだ。


 ただ、どちらが「仕掛けて」いったのか。それは間違いなく千葉のほうである。そういった意味で、僕は千葉の「判定」勝ち(実際のスコアで勝っている以上、奇妙な言い方だが……)としたい。千葉のアマル・オシム監督が「2−1で大分が勝っていてもおかしくないと思いました」とコメントしたように、大分の勝ちもあった試合だと思う。だが、これは単なる好みだ。大分ファンには申し訳ないが、筆者は基本的に「仕掛ける」ほうがスキなのである。


 J's goalの試合レポートでは「ミスで勝負が決まった」と書かれていた。確かにその側面はある。しかし、一方で勝敗にはある程度の必然がある。それが本当にミス「だけ」に帰するものなのか、一方の仕掛けによって半ば必然的に起きたものなのか、それを検証しておく必要がある。そうすることによって、「バランスを保つこと」と「バランスを崩すこと」がそれ自体は等価であり、状況に応じて選択されるべきものだと言うことが分かるからだ。


 日本サッカーは総じて「バランスを保つ」ことの方に重きを置きたがるが、得点するためには「バランスをどう崩すか」考えないといけない、ということを忘れてはならない。

↓お陰さまでトップ10入り果たしました!
 これからもどうぞよろしくお願いします!

blogランキングへ投票する