J1第25節甲府vs.G大阪分析[下]

 このエントリーは、http://d.hatena.ne.jp/KIND/20061001/p3の続きです。

●「やり返す」第2ラウンド
 後半、試合はいきなり動いた。試合の趨勢を握るカギとなる2点目が、甲府に入ったのだ。


 47分、センターサークル付近でボールを受けた茂原岳人が、橋本英郎を振り切ってそのまま約40メートルを独走。最後はややアゴが上がり気味で、息も絶え絶えになりながらも、右足インフロントでGK藤ヶ谷陽介の右手の下あたりを抜いた。


 G大阪が前掛かりになったところでボールを奪われたこと、さらに茂原のドリブルに対して山崎光太郎が右サイドに斜め走りをし、本来は茂原にアタックに行くべき宮本恒靖の意識を一瞬引き付けた。このファインプレーにより、茂原はペナルティーエリアまで何のプレッシャーを受けることもなく、ドリブルで持ち込むことができた。山崎のこういった影武者的な働きが、何も山崎特有のものでないところに甲府の強さがある。


 直後の52分、G大阪西野監督が動く。右サイドバック前田雅文を諦め、左利きのアタッカーである家長昭博を投入。右SBに橋本を置き、ボランチ遠藤保仁を下げ、遠藤のいた左ハーフに家長を置いた。


 この交代により、試合は一気に風雲急を告げる。攻撃に厚みを持てず、一発のロングフィード頼みになりかけていた(それでもある程度崩していたのはさすが)G大阪が、息を吹き返したのだ。


 投入直後、左SB山口智のパスを受けた家長は、左サイドから得意のドリブルでボールキープすると、斜めにフォローに入った遠藤にパス。遠藤はワンタッチで中央の二川へスルーパス。二川はシュートまで持ち込んだ。


 さらに58分、マグノ・アウベスが胸で流したボールをDFライン中央に絞っていた井上雄幾がポジショニングミス。ボールは裏に入った播戸竜二に流れ、GK阿部謙作と完全な1対1になる。しかし播戸は、あまりのビッグチャンスに力が入ったのか、右足を思い切り振り抜きポスト脇へ外してしまう。


 命拾いした甲府。そしてこうなると、甲府はまた「やり返す」。59分、相手DFラインのパス回しに対し、右サイドバック杉山新が猛然とプレッシャーを掛けてボールに触る。ボールは高く舞い上がり、杉山はそのまま左サイドのスペースへ走り抜ける。このボールを、バレーが頭で杉山へ繋ぐ。ペナルティーエリア左に侵入した杉山は思い切り左足を振り抜くが、惜しくもGK藤ヶ谷のセーブにあい、ボールはシジクレイの元にこぼれてしまう。


 今度は、G大阪が命拾いした。正確には、し損なった。ここでシジクレイの集中力が一瞬フッと途切れる。そしてそのせつな、シジクレイにとっての死角となる右サイドから猛然と突っ込んできた石原克哉が、シジクレイがコントロールしようとしたボールを遅れ気味に右足に当てる。ボールは不意を突かれたシジクレイ、藤ヶ谷の脇をすり抜け、そのままゴールに流れ込む。


 まさに「やり返す」の典型。あれほどのビッグチャンスを作られた直後にしては考えられないほど、攻撃参加の意識が高い。彼らの意識の高さ、恐れを知らない敢闘精神は、いったいどこから来るのだろうか。正直、これは直接聞いてみないと分からない。いずれにせよ、これで3−0。王者G大阪相手に、信じがたいリードを奪った。


●「やり返す」第3ラウンド


 しかし、G大阪の勢いはまったく衰えない。挑戦者の強烈なフックにダウンしかけたものの、直後の1分後、強烈なカウンターをお見舞いする。60分、右サイドから仕掛けた二川のクロスが、対面のDFに当たってエリア内を転々とこぼれる。このボールに反応した播戸が、マーカーのビジュを背中で弾き飛ばし、その反動で身体をひねりながら左足シュートを叩き込んだ。難易度が高く、高度な身体の使い方を要求されるFWらしい泥臭いゴールだった。

 さらに67分、中央でボールを受けた家長が、遠藤とのワン・ツーでDFラインを軽々と破り、エリア内に侵入してGK阿部と1対1に。このシュートは一旦はGK阿部に弾かれたものの、左サイドでこぼれ球を拾った遠藤がすかさずクロス。ファーポストのマグノ・アウベスがギリギリで頭ですらしたボールを、最後は二川が右足で密集を抜けるきれいなグラウンダーシュートを沈めた。これぞ王者の貫禄。これぞ底力。3点差に突き放されてからわずか8分間で、G大阪はあっという間に1点差に追い上げてみせた。


 家長投入の効果は、てきめんだった。左サイドに明確な基点ができることで、2トップがよりゴールに近い位置でプレーできた。中盤が上がりやすくなり、攻撃に厚みが増えた。さらに家長自身が鋭いカットインで相手をかわして攻め込めるため、ガンバは実質2人も3人もの攻め手を得たようなものだった。


 この流れに輪をかけたのが、甲府の運動量低下、そして選手層の薄さである。甲府は56分に山崎光太郎に替えて宇留野純を、さらに失点直後の67分に茂原岳人を下げて須藤大輔を投入した。どちらも、戦術的な交代ではない。前節の新潟戦同様、疲労により同ポジションの選手を変更しただけのことだ。


 結果、甲府は選手交代で巻き返しを図るほどの選手層はない。レギュラーすなわちベストメンバーの甲府にとって、ペースを握られたら「やり返す」しかない。そしてやり返せない場合、殴られっぱなしになる。新潟戦の後半がそうだったし、この試合の後半もそうだった。


●ゴング:甲府の判定勝ち

 だが、得点経過はその後の約20分間動かないまま。G大阪はその後も何度か決定的チャンスをつかんだが、最後まで決めきることができなかった。

 甲府は、残り10分からロスタイムまで含め、ほぼ「打たれっぱなし」に近い状態で過ごした。85分あたりから前線を下げてコンパクトにし、サイドに人数を掛けたことで家長の脅威を半減することはできたが、それでも「打たれっぱなし」にほぼ代わりはない。


 それだけに、文字通りの「打ち合い」を臨んで勝利した価値は大きい。普通、この流れならばG大阪が持っていく。ある意味論理的で、ある意味「ありえない」勝利ともいえた。


 甲府は、何度もゲームを「壊す」チャンスがあった。特に86分、カウンターからバレーが抜け出し、シジクレイと1対1になりながらゴールに迫ったシーンがそうだ。このシーンでは、バレーは試合展開や時間帯を何も考えずに勝負を挑み、そしてボールを失った。結果的にここからボールをG大阪に渡し、何度もチャンスを作られた。もし同点ゴールが決まっていれば、このシーンがクローズアップされた可能性はある。「なぜ、コーナーフラッグに向かわないのだ」「なぜ時間稼ぎをしないのだ」「なぜゲームを壊さないのだ!」と。


 だが、それは言わないでおこう。いずれにせよ、ジャイアントキリングである。甲府の清清しさを、殴られたら殴り返す闘志を、最後まで勝負にゆく敢闘精神を、今は手放しで賞賛しよう。君たちは、ガンバに勝った。君たちは、強い。

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