J1第24節新潟vs甲府(3-0)[下]

-<“塩を送った”甲府

 もっとも、ここまで甲府優位の構図を書いておいてなんだが、先手を取ったのは新潟のほうである。8分、三田からの何でもないロングパスが甲府GK阿部謙作とDFビジュの間へ落ちる。このボールをビジュが触るのだが、ビジュは背後から迫ってきたエジミウソンに気付かず、右足アウトでターン。ビジュはあっという間にボールをかっさらわれ、エジミウソンにGKと1対1に持ち込まれ、先制点を献上してしまう。

 コーチングの声が足りなかった(あるいは聞こえなかった)かもしれない。だが、最終ラインではセーフティにプレーすることが基本中の基本。本職のDFではないビジュの“ほころび”が出た、痛恨のミス。新潟にとっては、“敵に塩を送る”のエピソードの恩返しをされたような、タナボタ的な得点であった。
 
 そして、この試合はこの先制点でほぼ構図が決まってしまう。引いてカウンターを伺う新潟に対し、人数を掛けて攻め込む甲府。無理に人数を掛ける必要がなくなったとはいえ、新潟は左にファビーニョ、右に鈴木慎吾田中亜土夢をトップ下とする3シャドーで、1トップにエジミウソンという攻撃陣が常に裏を伺う。特に鈴木慎吾は、甲府の左SB山本の裏を常に伺い、縦に抜け出すタイミングを見計らっていた。

 その形は、随所に現れる。鈴木慎吾は18分に三田のロングフィードで抜け出し掛けると、35分には再び縦パス一本で裏を取り、ファーサイドから走り込んできたファビーニョの決定的なヘディングシュートをお膳立てした。

 思わぬ形で先制を許した甲府も反撃に出るが、ペースを握りながらもなかなか決定的な形まで持ち込むことができない。24分には中央で得たFKから山本が無回転のシュートを放ったものの、GK北野の正面へ。39分には右SB杉山から左FWバレーへ決定的なサイドチェンジが通りかけるが、ボールが風で流されてか、大きく流れてタッチを割ってしまう。
 
 運動量が落ちなかった前半のうちに1点を返すことができなかったことが、甲府の運命を決定付けてしまったといえる。



-<決定的な2点目、山本の退場>
 
 後半開始から、甲府は目に見えて運動量が落ち始める。前半はボールホルダーに対し2人、3人と囲みに行くシーンが目立ったが、後半はそういった連動が消え、次々に新潟にチャンスを作られる。

 そして58分、試合の行方を決定付ける2点目が入る。ペナルティーエリア左でボールを受けたエジミウソンが、対面の杉山新を難なくドリブルでちぎってそのままシュート。GK阿部はなんとか弾くものの、走りこんできたファビーニョにこぼれ球をつながれ、最後はファーサイド鈴木慎吾に蹴り込まれた。エジミウソンに対処した杉山は“たたら”を踏み、エリア内に4人がいながら、こぼれ球に対して誰も反応しきれなかった。この時点で、甲府の疲弊ぶりは相当なものだった。

 さらに64分、甲府ハイボールの競り合いの際、相手の死角から左ひざを上げて飛び上がった山本秀臣が2枚目の警告を受けて退場処分に甲府大木武監督が、FWの宇留野純須藤大輔を準備させていた矢先の出来事だっただけに、痛恨の極みといえた。

 試合は2点目の時点でほぼ決まり、山本の退場で終わったといえた。運動量の低下した甲府にとって、10人の状態で2点のビハインドをはね返し、7人で守備を固める新潟を崩せというのは無理な注文である。甲府はその後ほとんど見せ場を作ることもなく、逆に新潟は72分、シルビーニョの縦パス1本で抜け出したエジミウソンが、GK阿部との1対1を難なく制し3点目を決めた。甲府は、先制された試合で11敗という圧倒的不利なデータを覆せず、敗れ去った。

-<広島から見る甲府対策>

 さて広島は、第26節(10月7日)に小瀬で甲府と対戦する。戦術的には、ボールホルダーからの供給を抑えるとともに、左サイドから流れてくるバレーへのマークがポイントとなる。どういう戦い方を選択するか、だが、「セーフティ」にバックラインを下げることは非常に危険だ。バレーをゴール前まで迎え入れることによって高さでの不利を背負い、さらに中盤からの飛び出しにも気を遣わねばならなくなるからである。
 
 バックラインを高く上げるのは「リスキー」だが、相手の戦術を真っ向に受け止めれば大宮戦同様にやられてしまう。そして甲府の3トップは、バレーがいる分大宮よりもはるかに厄介だ。やはり、アンカーボランチとしてボールを散らす林健太郎へのマークを厳しくし、相手にスピードを与えないことが重要。つまり、前から行くべきなのだ。
 
「先制点を与えない」というのは、精神訓話であって「対策」ではない。だが、こちらから先手を取りさえすれば、あとは運動量の低下を待てばかなりの確率で勝利を手にすることが可能。広島は15位だが、甲府も14位。この順位にいることには、両チームともそれなりの理由がある甲府の場合は、先制点を失ったケースでの極端な弱さ。これを突くためには、こちらから仕掛ける以外にない。相手の勢いを怖がらず、受けに回らないことが重要だろう。

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