J1第24節広島vs大宮(1○0)(下)

-<後半>
 命拾いをした広島。仕留め損ねた大宮。大宮にとってその代償は、高くついた。後半10分を過ぎる頃から、大宮の運動量は徐々に低下。選手間の距離が少しずつ開き、ボールホルダーへの寄せが甘くなる。結果、前半は完璧ともいえた右サイド封じにほころびが生じ始め、広島は徐々にDFラインからボールを回せるようになった。
 
 大宮は62分、運動量の低下した久永に代えて藤本主税を投入(元広島の藤本には、スタンドから盛大なブーイング!)。前線を活性化し、一時的には広島のDFラインを再び押し込むことに成功した、かのように見えた。
 
 しかし70分、DFラインのケアに忙殺されほとんど仕事ができなかった青山敏弘が、一瞬の輝きを放つ。DFラインの前でボールを受けた青山は、大宮の前線4人からプレッシャーを受けながら右サイドの駒野にロングパス。このボールを受けた駒野は、右サイドに張っていたウェズレイに預けると、素早くオーバーラップしてウェズレイを追い越す。ボールを受けたウェズレイは、中央に正確なクロス。最後はDFラインのギャップに入り込んだ森崎浩司が左足インサイドでダイレクトで合わせ、この試合唯一のゴールを奪った。
 
 このゴールは、「走り抜いたこと」が生んだものといえた。青山の粘りからボールを受けた駒野は、ウェズレイに預けた後、足を止めずに右サイドを駆け抜ける。この動きにDF冨田大介が釣られたことで、ウェズレイが一瞬フリーになり、精度の高いクロスを供給できた。さらに佐藤寿人がニアサイドに向けてDFラインを斜めに横切り、中央のDF奥野誠一郎、DF土屋征夫が意識を取られたことで、中盤から上がってきた森崎浩を視野に入れられなかった。青山、駒野、ウェズレイ、佐藤、森崎浩のいずれが欠けても生まれなかった、美しいシンクロだった
 
 そして、この1点が試合の趨勢をガラリと替えてしまうこととなる。
 
 直後の72分、大宮は斉藤に代えて長身FW森田浩史を投入し3トップを敷き、パワープレーのシフトを作る。さらに77分には吉原を下げてアリソンを入れ、こぼれ球を拾おうとした。
 
 しかしその意図は、選手には十分に伝わっていなかった。大宮はラインこそ押し上げるが、残り時間が少ないにも関わらず、グラウンダーのパス回しにこだわる。結果、無理に得点を奪わずとも良くなった広島のプレスの網に掛かり、カウンターから次々と決定機を作られる。
 
 大宮のDFラインは、間延びした中盤のサポートを受けられずに孤立し、ウェズレイ佐藤寿人柏木陽介らに、前半の映し鏡のごとく切り裂かれていく。70分のゴールは、両チームの立ち位置を残酷なまでに変えてしまった。
 
 しかし、その「映し鏡」は決定力という面でも同じ。前半の大宮に4点の決定機があったとすれば、広島にも同等かそれ以上の決定機があった。しかし、ウェズレイや佐藤寿が掴んだGK江角浩司との1対1のチャンスは、江角の沈着なセービングにあいことごとく枠の外へ。試合は前半終了時と同じように、優勢なチームが決定機をことごとく逃したまま終了のホイッスルを迎えた。
 
 前半の守勢を凌ぎきり、後半に入って唯一の得点を奪った広島。彼らが勝利に値したことに、異論はない。残留争いという観点からも、勝ち点3はこれ以上ない結果である。
 
 しかし、課題は数多く残った。大宮のシフトに対して真正面にぶつかり、ピッチを広く使えなかったこと。試合中に柔軟にポジションを変えられず、試合の流れを押し戻せなかったこと。ゴール前に近づくほど余裕を失い、中途半端なスルーパスや不要なタッチが増えたこと、などである。相手の決定力不足に助けられ、自らの手でペースを取り戻せなかったことは、大きな課題である
 
 幸運にも、次節の相手川崎は、主力のマギヌンを累積警告で欠く。G大阪戦で負傷退場したジュニーニョの出場も、現時点では不透明だ。アウエーとはいえ、勝ち点を奪うチャンスはある。しかし、この日のように相手にペースを握られるままならば、そう簡単に幸運の女神は微笑まないだろう

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