マリーシアとは「布石」である(仮)

日本人だけがわからないマリーシアの意味:ワールドサッカープラス

 このコラムは“マリーシア”の本質について、サッカーライター戸塚啓氏がお書きになったもの。氏はイタリア人の友人、さらにカカーの「あえて狭いコースに出したパス」を例に挙げ、「マリーシアとは“ずる賢さ”だけではない、精神的なものだけではない」、それは
 
 「自分がそうしたいと思うことを、実行するためのテクニックだ
 
 と結論付けておられる。この記事はかなりの反響を生んだようで、はてなブックマークでも大勢のユーザーがブックマークしています。すごい人気ぶり。


 無言で相手を誘惑することと、ウインカーを出さずに幅寄せをしていくこと。どちらも精神的な駆け引きのように感じられるが、ファブリツィオは「マリッツィア=精神的なもの」ではないと言う。「自分がそうしたいと思うことを、実行するためのテクニックだ」というのだ。
(中略)
いまもまだ、マリッツィアとは何なのかを考えている。現時点で分かっているのは、「ずる賢い」というひと言には収まりきらないということだ。そして、日本人にはずる賢いプレーも、カカーのようなプレーも圧倒的に少ない。オシムが「考えるサッカー」を提唱する理由のひとつがそこにある、と思う。(戸塚啓=スポーツライター


 この論考について、◆ Football Kingdom ◆さんは以下のように言及しておられます。そして両者の記事を併せ読んで、僕は“マリーシア”という言葉の定義を仮にこう決めようと思います。すなわち、「布石を打つ」ことです。


http://blog.goo.ne.jp/rossana75jp
(例1)
引いた相手ディフェンスラインを崩す為にミドルシュートを撃つとします。相手DF陣は、ミドルシュートが決められるのが嫌なので、次にミドルシュートの体勢になった瞬間に前に出てきてシュートブロックをしようとします。すると今度は、ディフェンスラインの裏のスペースへパスを出します。
(例2)
相手チームの左サイドでSBとの1対1の局面。そこでウィングのプレーヤーがクロスを上げようとします。一度、右足でクロスを上げようとして、キックフェイントを入れて左足でクロスを上げます。次に、同じような局面で、前回と同じキックフェイントを今度は左足でもフェイント入れて、結局、右足でクロスを上げます。

この2つの局面でのプレーは、マリーシアだと思います。

 賛成です。これら2つの例では、相手を崩すための“布石”としてのミドルシュートがあり、キックフェイントがある。結果的に崩したプレーはスルーパスであっても、それ以前の布石がないと通用しなかったかも。“マリーシア”とは、「相手を崩した状況そのもの」よりも「その状況を引き寄せる布石」と解釈したほうが、個人的にはスッキリします。
 
 そして布石としていうなれば、これまで「ずる賢さ」といわれていたプレー(走り出す方向と逆に相手DFユニフォームを引っ張ること等)に加え、一見意味のないようなDFライン裏への放り込み(効果:相手DFの押し上げを抑制する)、ノーフェイクでパスを通す(効果:フェイクを効き易くする)、あえてタッチ数を1つ多くし、相手DFのタイミングをずらす(効果:相手にトラップのタイミングを計らせない)、右サイドからアウトサイドでシュートを放つ(効果:サイドからシュートフェイクが効くようになる)なども、すべて“マリーシア”と考えられます。
 
 ただ、これらは「単にそうするだけ」では単なるフェイントです。あくまで90分間のゲームの流れ、相手選手との駆け引きをみて、「次のプレーへ布石を打つ意識を持つこと」が条件です。布石自体は失敗しても、心の中で「ヘッヘッヘ」とニヤけているような(笑)、そんな悪だくみですね。
 
 上記の例では、幾つかは技術的に高いレベルが要求されます。ですが、Jリーガーの技術レベルで不可能なものは、そんなにないと思います。つまり、できないのは意識の問題。
 
 そしてこれらの多くは、フットサルで習得可能であるように思います。現役ブラジル代表に限ってもロナウジーニョ、カカー、ロナウドデニウソンリカルジーニョルシオベレッチなどがフットサル経験者です。彼らがマリーシアあふれるプレーをするとき、そのルーツはフットサルにあるのかもしれません。
 
 仮に「マリーシア=布石を打つこと」と考えると、確かに日本人はマリーシアが足りないのかも知れません。が、彼らを見る側の我々もまた、「マリーシアを見抜く目」は不足している可能性があります。戸塚氏にしたって、本当にすべての日本人にマリーシアが足りないと思っているのでしょうか。日本人でも小野伸二などは、直前まで右足であわせるフリをして、軸足である左足で平気でダイレクトパスを出したりします。そういえばかのラモン・ディアスも、右からのグラウンダークロスに対して「右足を出し、右に身体を傾けながらスルーしてそのまま左足インサイドでシュート」なんて神業をやってのけた試合がありましたが……。こういったプレーをされるとDFとしては本当に飛び込みづらい。“マリーシア”とするに十分ではないでしょうか。

 小野伸二ほどの技術でなくとも、Jリーグでもそういったプレーは見ることはできます。まったくゼロ、ということではありません。もっとも、「足りない」ということならば、そのとおりかも知れませんが……。
 
 いずれにせよ、われわれは「マリーシア」を見抜くためには90分間集中してプレーを観察し、「たんなる単調なプレーなのか」「布石を打っているのか」ということを見極めねばなりません。それは決して簡単なことではなく、見る側にもそれ相応の観戦経験が求められるのではないでしょうか。
 
 以上、僕なりのマリーシアの噛み砕き方は、「布石を打つ」です。マリーシアの解釈について、ほかに意見のある方は、ぜひぜひトラックバックをお待ちしています。


↓お陰さまで、順位急上昇してます。良かったら、押してください。

blogランキングへ投票する

情熱のブラジルサッカー―華麗・独創・興奮 (平凡社新書)

情熱のブラジルサッカー―華麗・独創・興奮 (平凡社新書)



マリーシアとはちょっと違いますが、この小野のゴールもすごいですねえ。

 最初はパスがユルユルで、ワンツーを狙っているフシもない(そんなスペースもない)。そこで小野は、あえてスペースのある後方にバックステップし、こぼれ球に備えた。そうして、そこにモノの見事にボールがこぼれてきた……わけですが、普通あんな急なタイミングで浮き球がくれば、あせってトラップするか、ダイレクトでどこかに出すか、いずれかです。
 
 それをこの人は……きっちり歩幅をそろえて、インステップというよりはインサイドで合わせるようにして枠に飛ばしてきた。あの一瞬で「ゴールを狙うタイミング」と発想し、ステップを合わせ、態勢を整え、正確に枠を捉えるシュートを放つ。なんというか、モノが違うとしか言いようがないですね。