千葉vs.川崎 分析[下](ナビスコ杯準決勝2nd)

 このコラムは、http://d.hatena.ne.jp/KIND/20060921/p3の続きです。


 千葉のアマル・オシム監督はハーフタイムに「2−0で勝っているのだから、後は気持ち」というコメントを残している。この指示は、どう解釈したらよいのか。選手たちには、どういうメッセージとして伝わったのか。

 僕は千葉側からみた前半は「あと1点が取れなかった」しかし「2点をリードし、相手をカタにハメた」とも見える。ならば、千葉は思い切って引き気味にゾーンを敷き、相手2トップをおびき寄せ、DFラインの裏を羽生や坂本らに突かせる作戦を取るのもアリだっただろう。だが、千葉は良くも悪くもそういう駆け引きをしない。好感を持てるところであり、同時に勝負どころに勝ちきれない理由でもあると思っている。

 そして同点に追いつかれたことで、僕の懸念の半分は当たることになった。

-川崎、「創造的な組織」のゴール


 後半から川崎は、左CBの伊藤宏樹がサイドを駆け上がり、攻撃参加するようになった。これで左サイドにトライアングルが幾つか形成でき、ジェフのプレッシャーを徐々にかいくぐるようになった。そうして後半11分、GK相澤から伊藤に渡った後、川崎は14本ものパスをつなぎ、最後はマギヌンが左足アウトサイドで豪快なミドルシュートを沈めた。
 
 このシーンの直前では、ジュニーニョマギヌン中村憲剛の予備動作が布石となっている。マルコンからのパスを受けたジュニーニョは、左サイドで粘ってボールキープ、3人を引き付けて中央の中村へグラウンダーパスを戻す。このとき、ジュニーニョはパスを出した後素早くDFラインの裏に向けてダッシュを開始した。この動きに釣られ、ストヤノフはマークに急行する。しかしこれはジュニーニョのワナ。全力ダッシュストヤノフをDFラインまで引き戻すことで、DFラインとボランチの前にエアポケットを確保した。そこにマギヌンが引いてきたことで、マギヌンは完全にフリーになったのである。

 一方、ボールを受けた中村は右足で切り替えしてマーカーを外すと、フリーになっているマギヌンへ迷うことなくパス。マギヌンは前を向いてボールを受け、落ち着いて左足を振りぬいた。一見すると完全な個人技による得点に見えるが、そこには伊藤宏樹の攻撃参加から始まったトライアングルの形成、それによるパスコースの増加、さらにジュニーニョの隠れたアシスト、中村憲剛のマーカーをかわす動きなどの布石、つまり「創造的な組織」が存在していた。非常に興味深い得点シーンだった。

-勢いづく川崎

 このゴールによって、川崎は勢いに乗った。一方千葉は、2−0から2−1に追い上げられたことで、戦い方が難しくなった。3点目を狙って攻めに人数を掛けるのか、それとも1点差を守りながら、じっくりとボールを回していくのか。千葉の選手は、テンポを変えずラインを押し上げ、3点目を狙いに行く戦い方を選択した。

 その選択は、結果的には裏目に出る。後半17分、川崎のクリアボールを我那覇が頭で落としたところを、千葉のDF(恐らく斉藤)が足元でカットにいったものの触れずに流してしまう。これを拾った中村憲剛が、姿勢の良いドリブルで持ち上がり、オフサイドぎりぎりのタイミングでスルーパス。これをDFラインの裏に抜け出したジュニーニョが、角度のない位置でGK岡本と1対1になりながら、豪快に股間を抜いて蹴りこんだ。

 千葉は前半こそ、川崎の前線に対してガッチリとマークでき、バイタルエリアにはほとんどスペースが空かなかった。しかし川崎が後方からきっちりと基点を作ってポゼッションするようになると、前線からのプレスが徐々に空振りになる。それを埋めようとしてマークに入ろうとするため、今度は別の場所が空く。結果、「振り回される」形になり、川崎のパスサッカーに対応できずどんどん体力を奪われていく。

 マンマークの弊害といえばそれまで。だが、川崎は中2日、千葉は中3日の厳しい日程における試合である。プレッシャーの掛ける位置を低めにし、前半2−0とした後のようにゾーンを全体的に押し下げていけば、運動量はそれほど多くなくてすむ。リードしている間ならば、苦しいのは相手のほうだ。ましてクリアミスがそのまま失点に直結するような、2失点目のようなやられ方はしなかっただろう。

-疲労が両チームを襲う

 その後、両者は3点目を狙って攻め続けるも、千葉は中3日、川崎は中2日の日程というきつさもあり、徐々にパスの精度が低下。ともに第3、第4の動きがなくなり、千葉は徐々に縦パス一辺倒となった。

 こうなると、有利なのは個人技に優れる川崎だ。個人で何とかせねばならない局面が増えると、千葉には攻め手がない。千葉の場合は、崩しの形にすら持ち込めず、DFラインの裏や、巻への頭めがけて雑なロングフィードも目立った。川崎も疲労していたとはいえ、ゴールの一歩手前まで持ち込むシーンまでにこぎつけてはいた。

 千葉にとっての決定機は後半終了間際、中央でフリーで受けた阿部のミドルシュートがDFにあたり、右ポストをかすめたシーンに留まった。川崎にあと一工夫あれば、得点の可能性が高かったのは川崎であるように思えた。千葉のシュート数13に対し川崎が倍近くの22という数字も、いかに川崎がゴール近くに迫っていたかを物語っていたように思う。

 また、両チームの控え選手の差も大きかった。千葉は76分に羽生に替えて水野晃樹を投入した。だが、千葉にとって攻撃のギアを切り替えられそうな選手は彼ぐらい。そして、その水野も全体の運動量低下に引っ張られ、それほど見せ場を作ることはできなかった。

 一方、川崎は延長戦前半までレギュラーを引っ張ると、101分に我那覇に替えてチョン・テセ、112分に中村に替えて原田拓を投入してより攻勢を強めてきた。延長後半には、中盤でボールを奪ったチョン・テセが抜群のスピードで2人をかわしてドリブル突破を図り、ファウルを受けるシーンもあった。交代策が機能していたのも、川崎のほうだったように思う。千葉にとっては、「PK戦に持ち込めれば」という状況だったに違いない。

 それだけに、あのPKは……森は確かに手を挙げているし、軽率なプレーではある。笛を吹かざるをえないシーンでもある。だが、坂本のファウルに見えないこともない。あのシーンで躊躇無く笛を吹くことには勇気がいるが、正直なところこの試合はドローが妥当だったように思う。判定云々というよりは、妥当な形で決着がつかなかった感があること、それ自体が残念だ。


-決勝の相手は試合巧者鹿島に


 ただ、断っておくが、千葉の勝利には一つの毀損もない。前半の内容の素晴らしさを思えば、千葉が勝利を収めることはまったく正当なこと。判定は判定、PKはPK。そしてその強烈なプレッシャーが掛かるPKを決めた阿部には、賞賛の言葉しかない。

 さて、決勝戦の相手は鹿島ということになった。横浜との準決勝は見ていないが、相手の一瞬のスキをついて1点を奪いアウエーゴール差で逃げ切るあたり、鹿島は伝統的な勝利のメンタリティが復活してきているように見える。

 川崎のような縦への抜群のスピードを武器にせず、ある程度ポゼッションで崩してくるチーム。しかしスピードに乗るときは一気に崩しに来る。ペースメークと、ゴール前で野沢拓也が見せる創造的なプレー、深井正樹のドリブル突破、柳沢敦の巧みなマーカーを外す動きがあり、油断できない相手である。

 ここ5試合の対戦成績は、2勝1分け2敗とまったくの五分。好試合が期待できそうだ。


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