「意図的なバブル」を作り出せ

 サッカー蟻地獄の隊長から、こちらのエントリーについてトラックバックをもらった。本分は長いので見出しだけの引用に留めるが、それでも十分にレスは可能だと思う。

http://blog.fckbu.jp/archives/2006/09/joskv.html
Jリーグ「全体」への関心低下はレベル低下を本当にもたらすのか?
■そもそも、Jリーグ「全体」の人気は必要なのか?

 まず、大住良之氏と僕のスタンスの違いを書いておきたい。大住さんは

http://sports.nikkei.co.jp/soccer/column/osumi/index.cfm?i=20060917ca000ca
しかしここまで「Jリーグ」の影が薄くなり、価値が下がると、看過はできない。Jリーグ自体への関心が低下すれば、そのつけは、最終的に各クラブに回り、日本サッカーのレベルの低下を招くことになるからだ。

 と書いておられる。が、僕は現状で「Jの文脈が取り上げられないのは当たり前」と考えている。単純にニュースバリューがない、という意味だ。その上で大住さんの問題提起に乗ると、「収益基盤を安定させるためにメディアを利用せよ」という結論になる(逆に言えば、この「代表に侵食された状況」は、J機構ならびに各クラブ広報、広告代理店の全員かいずれかに責任がある)。


-仮説:J全体の人気向上は必要である


 Jリーグにおいて、独立採算制をとっているのは浦和だけ。その他のクラブは親会社にいまだ依存し、単年黒字を計上するクラブはそう多くなく、いまだに多くの累積赤字を抱えている。浦和にしてもhttp://d.hatena.ne.jp/KIND/20060911/p1こちらのエントリーにあるリンクを辿ると、広告料収入を超える入場料収入を得ながらも、それだけで運営費すべてを賄えるわけではない。浦和以外の多くのクラブは、未だに親会社が手を引けば消滅の危険にさらされている。Jの基盤は、まったく磐石ではない

 しかし、そこでJの理念を捨てるわけにはいかない。例えば現時点でチーム名のネーミングライツを売りに出せば、それなりのスポンサーはつく。しかしそれは企業スポーツからの脱却、地域密着のクラブ作りという理念から相反する。あくまで、地域密着の理念を阻害しない方法で人気向上を図りたい。

 いろいろ解決法はある。だが僕はあえて、「Jリーガーのスター作り」を提唱したいと思う。


-「意図的なバブル」を作り出せ


 スター性のあるJリーガーの露出を、積極的に増やす。サッカー誌だけでなく、「Men's NON-NO」「an-an」さらには「LEON」でもいい、一般誌に積極的に露出すること。それらパブリシティにより、ライト層をスタジアムに呼び込むことを狙う。要は「意図的なバブルを作り出す」ことである。

 現状では、チームは若手に勘違いさせないように、メディアの露出を押さえ気味にしているところが多い(クラブ名は出せないので、ボカしています)。しかしその結果、一部であるとはいえ無理解なメディアから「オシム日本にはスター不在」という書かれ方をされてしまう。

 実際にはモデルも務められるようなフォトジェニックな選手は多いし、華麗なプレーと甘いマスクを両立させている選手もいる。そういった選手はしかし、プロ野球の一部アイドル的な選手たちほどの露出はない。それは「バリュー」だけの問題でなく、チーム側の営業努力、プッシュが足りないからだと考える。

 スター的な選手を作る功罪は当然ある。まず、テレビの視聴者にフックが掛かる。「サッカーは良く分からないけど、あの有名な誰それを見たい」という行動要因につながり得る。要は、不純な動機でサッカーを見に来る人が増える。当然、ゴシップ記事も増える。選手個人にも「これで良いんじゃないか」という慢心が芽生える可能性がある。

 一方で、Jリーガーを目指す少年たちには何らかの心的動因をもたらす。「Jリーガーになればテレビに出れる」「タレントと付き合える」という動機であったとしても、それが切っ掛けでサッカーを始めれば、そのうち真剣に取り組まざるをえない。結果的に、他の競技よりサッカーを優先する子供が増える(すでにそういう傾向はあるが、さらに拍車が掛かる)。そのとき、その子供たちの部屋の天井には、ロナウジーニョやメッシ、大木勉ら世界的なスターに混じり『中田英寿(仮)』というJリーガーのピンナップが飾られるようになる。

 どちらも仮定の話だ。しかし、意図的なバブルを作り出せれば、何らかの「波」を起こすことはできる。

 問題は、J機構側とチームのマネジメントである。どの程度露出させ、どの程度抑えるのか。ケースバイケースでしかないが、現状の抑え方はやや過剰に思う。スター候補生は、確実に存在する。そこでうまく「バブルを作る」ことができさえすれば、Jリーグはそれ自体で評価を高め、少なくともライト層の獲得にはつながりうる。

 ライト層の拡大は、パイの拡大である。端的に言えば、平均動員数1万人のスタジアムに2万人、3万人が「一時的に入る」状況を作ること。どれだけのサポーターを抽出できるかも重要だが、まず入場料収入・広告料収入・マーチャンダイジング収入に加え、集客力あるソフトということで放映権料の上乗せも期待できる。NHKにすらソッポを向かれた状況から、巨人戦がドル箱で無くなった民放にとっての新たなコンテンツとしての可能性を開く。チームは、そこで勘違いして無駄な投資をせず、プロモーション費用および過去の損失補てんに当てれば、経営はずい分と楽になるのではないか。

 要は、「清濁併せ呑む」という状況を、一時的にせよ現出させることだ。それこそ、J全体の価値向上、各チームにおいては「観客層のシャッフル⇒最適化」を促進するものだと思う。

 そのためには、チームフロント、メディア、広告代理店、さらにサポーターも手を貸さないといけなくなる。正直、「気が進まない」と感じるサポーターは大変多いはずだ。しかし、誰だって最初は初心者である。それに、マユをしかめるような物事も含めて「日本文化」であり、その中に埋没してこそのサッカー文化ではないだろうか。

-考えうる反論

 もっとも、この議論には穴がある。例えば「スターは作るものではない」という意見、「Jにどういうバリューをつけるのか、具体案は」という意見、さらに「現状では代表人気にあやかって、それからプロモーションする方法しかないのでは?」といった意見には、反論しづらい。だからこそ、仮説である。

 ただ、Jリーグ各チームの財政は、決して安寧としたものではない。その状況を踏まえて、何らかの対策を考えていくことこそが、重要なのではないかと思う。


なお、この日記はこちらに続きます。
http://d.hatena.ne.jp/KIND/20060921/p2
http://d.hatena.ne.jp/KIND/20060922/p1


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