調整の場に使われるクラブワールドカップ

 ひっそりと、クラブワールドカップが開幕している。

 この場合、「ひっそりと」という表現はさほど間違ってはいないように思う。僕が閲覧するサッカー系ブログで言及されることは少ないし、日テレ系以外で報道されることはほとんどないし、さらに開幕戦には19,777人という観客数(参照)しか集まらなかった。盛り上がりを欠いていることは明らかだろう。
 開幕戦の試合の質もそうだが、日テレの報道姿勢にも問題があると感じる。アナウンサーが相変わらず知識に乏しく、試合の流れに関係なく用意された原稿を読み上げたり、ゲストにつまらない話を振ったり、稚拙な質問で解説を返答に窮させたり、わざとらしく声を張り上げたりして、熱狂できない試合にさらに冷水をぶっかけている。サッカーファンのほとんどはスカパーを見て、専門的な解説やアナウンスに慣れているので、こうした未熟なアナウンスには辟易するのではないだろうか。

 この比較が適当かどうかは定かでないが、googleブログ検索でここ1か月以内に参照された“クラブワールドカップ"と“浅田真央"を比較したところ、

http://tinyurl.com/62axo5
クラブワールドカップ の検索結果 約 2,556 件

http://tinyurl.com/6ggmwj
浅田真央 の検索結果 約 8,801 件

 3倍以上の差がついている。浅田真央を比較に出したのは、もちろん昨晩にグランプリファイナル・ショートプログラムが行われたから。どの期間からパブリシティが始まったのかは定かでないし、数多くのファンサイトが存在する浅田真央と、いち大会であるクラブワールドカップを比較するのは適当ではないかもしれない。それでも“熱"を考えると、どちらが多数の日本人を引きつけているかは明らかではないかと思う。

 もっとも、熱気が足りないのは日本だけではない。今大会の客引きの要であるマンチェスター・ユナイテッドがある英国では、このように報道されているようだ。

http://www.guardian.co.uk/football/2008/dec/10/manchester-united-ronaldo-club-world-cup
>Since then the world governing body have reinvented the tournament and moved it to Japan but despite Liverpool finishing runners-up to Sao Paulo in 2005, it has failed to capture the imagination of the British public.

 つまりFIFAがトーナメント形式を改め日本開催に移管し、2005年にはリバプールが2位になった(2位に終わった)大会にも関わらず、英国での関心を引きつけることに失敗している、と断じている。

 この記事ではサー・アレックス・ファーガソン監督のインタビューが掲載されており、見出しにもあるように「大会をリスペクトする」としているものの、実際は負傷欠場していたポール・スコールズの調整に使うようだ。

>Ferguson, however, will be hoping the games can provide Paul Scholes with a chance to regain match fitness. The midfielder returned to action last week in the Carling Cup after two months out after knee surgery.
>"It is an opportunity for Paul to make his comeback," added Ferguson."He may have played before that but this is an ideal opportunity for him to get games under his belt. He is such an important player for us that this is a bonus for us for a player making his comeback."

 スコールズは好きな選手だし、日本のファンがスコールズを見て喜ぶことは間違いないと思うが、どうしても勝ちに行く姿勢とはちょっと違うように思う。やはり、この大会はユナイテッドにしてみると「アジア遠征」に他ならないのではないか、と思う。

 さらに、英国のお隣であるRTE(アイルランド放送協会)の記事はもっと辛辣だ。

http://www.rte.ie/sport/soccer/2008/1210/worldclub.html
New Zealand's Waitakere United might be fully entitled to their place in Japan. But in a tournament limited to just seven teams, their presence is not going to set anyone's pulse racing.
>And while it will be interesting to discover whether Mexico's Pachuca or Al Ahly of Egypt triumphs in Tokyo on December 13, their quarter-final meeting is not going to divert attention away from the major European leagues.
>Blatter needs to acknowledge this, whilst also accepting the presence of Ecuador's LDU Quito as South American representatives has not added much to the competition's lustre either.

ワイタケレは誰をも興奮させないし、パチューカアル・アハリもヨーロッパ主要リーグの関心を惹かないし、エクアドルのキトがこの大会に華を添えることもない。ブラッターはこの事実を認めるべきだ」という趣旨のことが書いてある。

 ガンバ大阪についても、かなり手厳しい。

>Not that Gamba are exactly household names. They do have three Brazilians in their squad but the best known is Lucas, a 29-year-old centre-forward whose European experience was limited to a short spell in France with Rennes.
>And an average attendance of 17,000 means they will probably not even carry the majority of support inside the vast 72,000-capacity Nissan Stadium, which has been renamed since Brazil defeated Germany in the 2002 World Cup final.

「彼らは3人のブラジル人(1人はバレーのことか?)を抱えているが、その中で最も知られているのは、フランスでちょっとプレーしたにすぎないルーカスだ。平均動員17,000人ということは、日産スタジアムのキャパ72,000人の大部分からサポートを受けられない、ということじゃないか」と書いてある。

 悪口でも何でもなく、事実ベースで語ればこうなってしまう。そしえ、ヨーロッパのサッカーファンにおける平均的な意見もこれに近いだろう。各大陸王者とは言っても、最もサッカーに金を落とす人口が多いヨーロッパにすればさして興味をひかれる対象ではない。

 問題は、そうした問題が何も「今年明らかになった」ことではないことだ。去年も一昨年も、クラブワールドカップが引きつけているのはサッカーファンの一部にすぎない。例年どおり3位決定戦・決勝戦のチケットが完売しているということは、欧州代表vs.南米代表の一発勝負だったトヨタカップのままの形式で十分だったことを示唆している。実際、去年までのデータ(参照)を見ても決勝の視聴率はある程度取れているが、それ以外の数字は惨憺たるもの。ソースが定かでないので張らないが、今年の開幕戦の視聴率は8.2%だということだ。ゴールデンタイムでキャンペーンを張りまくり、ダービッツまで登場させたのにこの数字ではどうしようもないだろう。

 昨年は浦和レッズが盛り上げに貢献したものの、今年は浦和の敗退とともに露出が目減りした感がある。浦和サポーターの購買力に頼る構図は、Jリーグ関連のメディアとさして差がない。つまり大会としての価値は、現状その程度でしかないということだ。

 それでもTOYOTAがスポンサーのうちはまだ持ちこたえると思ったが、ここにきてTOYOTAは折からの不況で半期1,000億円の赤字を出し、約6,000人の非正規雇用者を契約打ち切りにすることを決定した。自動車産業は斜陽になりつつあり、業績が劇的に回復する見込みは薄い。

 2009年・2010年は中東開催で、オイルマネーで開催されるので問題ないだろう。が、2011年までにTOYOTAが撤退すれば、引き受け手を見つけるのは難しいはず。そう考えると、この大会が日本で見られるのは今年で最後の可能性もある。そういう観点からも、ガンバには是非とも頑張ってもらい、マンチェスター・ユナイテッドに一泡吹かせてほしいところ。

 それにしても、トップが思いつきでモノを言って現場を混乱させるのはFIFAJFAもあまり変わらない。トップの質に関して、日本は悪い意味で世界標準になってしまっている気がする。