『GAME』全曲紹介(4)


 http://d.hatena.ne.jp/KIND/20080420/p1
 http://d.hatena.ne.jp/KIND/20080420/p2
 http://d.hatena.ne.jp/KIND/20080420/p3
 
 こっちの続き。一応、ラストです。が、このポップス史上に残る名盤についてはこれからもガンガンに語ります。ありえねえって、このクオリティ! 

 CD不況の時代に、お楽しみ特典満載のDVDつきで3,300円。たったそれだけの出費で、あなたは簡単に歴史の証人になれます。どんな理由があろうとも(笑)、このアルバムを買わない手はない。それぐらい素晴らしいアルバムです。

■10.Butterfly

 表題作と双璧をなす、大問題作ではないかと思います。個人的にイチオシは『GAME』と『Butterfly』です。

 ただ事ではないです、この浮揚感。空に向かって大きな翼を広げてゆっくりと昇っていき、その姿はもう見えなくなる、そんなイメージ。『take me take me』で濃厚に立ち上った白煙は、実は雲間だったと。どこまでも昇っていくような、目をつぶってしまっても構わないような。『GAME』も大いに聞き手を戸惑わせましたが、『Butterfly』の与える脅威はそれ以上かもしれません。『GAME』がラオウだとすると、『Butterfly』はトキです(笑)。

 ジャンル分けすると、トライバルということになるんでしょう。アンビエントのよーなイントロに、民族音楽っぽいパーカッション、さらに無限のようにループする心地よいシンセ。そして3人のボーカル。「天女のように」と歌唱指導が入ったという、まったく地に足が着いていないフワフワした音感。歌詞もPerfumeにしては非常に不明瞭で、部分的にしか聞き取れない。

 でも、そんなことどうでもいい、という感じです。サビの『Butterfly』が連呼されるたびに、身体の力が抜けていく。目も閉じてしまえる。どこに連れて行ってくれても構わない、という気分になれる。すでに僕にとってPerfumeは神ですが(笑)、この曲でホントに神になっちゃいました。

 でも、この曲で終わられたらどうしようかと思いましたが(笑)、ちゃんと降りてくるんですね、TSPSで。エンターテイナーですわ、ホントに。

■11.Twinkle Snow Powdery Snow

 絶妙な配置といわざるを得ません。

 『Butterfly』で天空に昇っていったPerfumeが、雪になって降りてきたよーな感じです。明らかに狙ってるでしょう、これは。2006年12月20日発表の曲が、この傑作アルバムの終盤をきっちり飾るというのもすごいですわ。『チョコレイト・ディスコ』の配置は難しかったでしょうが、『TSPS』のほうは『Butterfly』の後しかありえなかったのではないでしょうか。

 この曲については、あまりに聞き込みすぎて(笑)今更よさを語っても仕方ないかな、という感じですので短めに。「とにかく聴いてください」です(笑)。ライター/編集者としては、やっぱりライミングの巧みさに目が行きますね。

 キミの輝き 甘い囁き
 僕のため息は つきたりないほど
 空の明かり 眩しい光
 宝石箱みたい
 ちりばめたTwinkle Snow
 銀色のPowdery Snow
 包み込むTwinkle Snow
 ララララララララ ラララ

 名ラインですわ、ホントに。そして『TSPS』で安心したあと、エンディングの『Puppy Love』に向かいます。

■12.Puppy love

 これまでのPerfumeの「締め曲」といえば、なんといっても『wonder2』でした。ラブラブでハートウォーミングでチャーミングで、しかしどこかもの寂しさを感じさせる名曲でした。実際、コンベスのラストに『wonder2』が使われたことで、当時実しやかに囁かれた解散説がより信憑性を増した部分もあったのではないでしょうか。

 が、この『Puppy love』を聴いた後、もはや『wonder2』が歌われることもないのかな、という気になりました。この曲から伺えるのは、「このアルバムで解散する」なんてことはありえない、「次に向かう強い意志」ですから。

 連想するのは例えばthee michelle gun elephantの4th『GEAR BLUES』における『ダニー・ゴー』。「泥沼に生えているオレの足」で始まる、暗中模索ではいずっていくアルバムが、この曲でカラリと冴え渡る。

 あるいは梶井基次郎の名作『檸檬』。肺尖カタルによる「えたいの知れない不吉な塊」が、丸善の散らばった画集の上にそっと載せられた檸檬によって四散していく。そんな曲です、これは。

『GAME』でゴリゴリに攻められ、『take me take me』で霧の中に連れ出され、『Butterfly』で雲間から差し込む光の中を上っていくような心持ちにさせられる。『TSPS』で地上に戻ってきたとはいえ、「いったいどこに連れて行かれるんだ?」という気持ちは消えない。

 そんな不安ともつかない気持ちが、この『Puppy Love』で消えうせる。生のベースに生のスネアに生のシンバル、新曲の中では最も弱いエフェクトをかけられた声。ビッグビートの波の中、ほとんど生身の3人が手を引く。『Seventh Heaven』の『ってどんだけ』を髣髴とさせる、『ツンデレーション』なんて言葉を使ってみたり。

「ここまでが作り物でした、楽しんで頂けましたか?」と種あかしされるように、アトラクションの出口のように視界がパーッと開ける。その先に開ける新たな地平、そこに向かっていく準備は万端、といわんばかり。

 なんという確信犯でしょうか。この曲のイントロを聴いたとき、不覚にもこみ上げてくるものがありました。

 『Puppy love』は、Perfumeネクストステージに立ったことを雄弁に語る、エポックメーキングな曲だと思います。この傑作を締めくくるに相応しい、誠に完璧な配置。そしてこの曲を聞き終えて残る、例えようのない爽快感。『GAME』を紛れもない名盤足らしめる最後の要素、それは『Puppy Love』の世界観ではないかと思います。

 長々と失礼しました。