久保だよ、久保

 愛媛戦の試合サマリーは、後ほど。いや、そんなもの必要ないかも知れない。この試合の焦点は、内容でも勝敗でもない。17,250人という観客数です。

 ハッキリいって、この数字は異常です。去年のホーム開幕戦はhttp://www.j-league.or.jp/data/view.php?d=j1f&t=result&s=02&y=2007こちらのとおり、12,891人です。雨が降ったということはあるにせよ、昨年と比べて約5,000人増えている。

 確かに開幕戦ではある。ゼロックスに勝ったこともある。しかし、J2です。相手は、こう言っては申し訳ないけど、さほど見所があるとは思えない愛媛FCです。開幕だから、ゼロックスに勝ったから、「だけ」では何か釈然としない。基本的にお客は、快感にお金を払う。「見たい!」と思わせる何かがあるから、スタジアムに足を運んだわけです。その「何か」とはなにか? その大きな疑問が、彼がピッチサイドに登場した瞬間に解消しました。

 久保竜彦を見に来たんですよ、今日のお客さん。間違いない。
 交代でピッチサイドに立ったときから、スタジアムの空気が明らかに変わった。誰もが彼を迎え入れていることが分かった。口には出さなくとも、「よく帰ってきたな」という雰囲気があった。あそこだけ試合の流れと切り離された、温かい空気が流れていた。

 久保のコールソングであった「君の瞳に恋してる」は、現エースである佐藤寿人のものになった。だから、サポーターからのコールは「クボ!クボ!クボ!クボ!」だった。地味で、何の変哲もないコール。6年間の不在を感じざるを得なかった。ただし、それは「最初の」コールまで。そのコールが、試合の流れと関係なく、もう一度沸き起こった。合計8回呼ばれた久保の名前。サポーターがどれだけの気持ちを込めたのか、その8回のコールから感じざるを得なかった。

 そして、スタジアムが変わった。ワンプレーワンプレーに、ものすごい声援が沸く。ロングフィードが一本久保に飛んだだけで、比喩ではなくスタジアム全体が震えるぐらいに「ワッ」という声が出た。誰に強制されたわけでもないのに、B6もサポシもバクスタもメインも関係なく。皆が否応なしに、衝動に突き動かされ、気がついたら声を出しているように感じた。

 本当に、信じられない。単に空中戦で競っただけ、カウンターからボールを受けただけなのに、なんてことないワンプレーで皆が沸く。あんな雰囲気のビッグアーチなんて、かつてあっただろうか? 久保が登場してからのスタジアムは、ちょっと記憶にないほど、異様な空気に包まれた。

 もちろん、異様なのは雰囲気だけじゃない。久保は実際に、すごいプレーを連発した。変態ワンタッチパス&ゴーで抜け出してシュート打ったり、難しいボールを何なくトラップしたり、高速でターンして寿人にスルーパス出したり、そして得点に繋がるシュート放ったり。J2では明らかに反則、変態としか言いようがないレベルのプレー。あれでまだ完全じゃないんだからねえ。

 久保の復帰が決まったとき、オレは「おじさんのロマンだ」と書きました。それは揶揄する意味ではなく、「彼が引退への花道を、広島で飾ってくれるなんて」という気持ちがあったからで。正直、戦力的にはさほど期待してませんでした。でもまあ、ゼロックスといい、草津戦の変態空中トラップといい、今日のプレーといい。もう明らかでしょう、久保の加入はとてつもないアドバンテージです。プレー面でも、営業面でも。

 この時点で結論を出すのは早いですが、もう言ってしまいましょう。久保の復帰は、サンフレ史に残る大英断でした。本谷社長、織田さん、あんたはエライ!