吉弘と陽介の件

 さて、何から書きましょうかねえ。広島のこともそうだし、他チームのことも何がしか書いておきたいんですが、まああんまり火種を拾ってくるのもどうかと思うので、自重ぎみに。

 http://www.chugoku-np.co.jp/Sanfre/Sw200801110062.html

 まずはこちらの記事から。『Don't trust 全国紙』がモットーの弊サイトとしては、「中国新聞に出るまでは判断をしない」という判断をしていた。で、そのとおり記事が出たので、色々書きたい。
 吉弘の件。正直、良い選択をしたとは思いがたい。札幌サポには申し訳ないが、現時点の札幌がJ1残留を容易に果たせるとは思えない。広島のJ1復帰も容易いとは思わないが、それでも来年にどちらがJ1にいるかと思えば広島だろうし、両者ともJ1にいる、という可能性はそれより低いように思う。彼自身の目標である五輪出場は、この移籍によって達成できるかは微妙なところではないか、と。

 ただ、吉弘の立場からすると、移籍を決断するのは分からなくない。ペトロビッチ体制ではDFにビルドアップ能力が優先的に求められ、本来のDFとしての能力は副次的な要素にされた(それが降格を招いた一因)。昨年は大怪我を負って出場機会がなかった吉弘だが、今年はチームの方針として出番がなかった。降格を受けてペトロビッチが辞任すれば話は別だったろうが、異例としかいえない留任。「来年も出番がない」と考えるのはごく自然なことだろう。まあ、決まったものは仕方がない。彼のキャリアに幸多からんことを祈る。

 柏木残留の件。こちらは後だしジャンケンのようで恐縮だが、天皇杯決勝後の時点で8割がた「こりゃ残留だろう」と思った。というのは、柏木は試合直後の興奮の中(彼自身は出場停止だが)、「ゼロックスでは体調を万全に整えたい」という主旨のコメントをしたのだ。あくまで愛情表現の一つと捉えてほしいが(笑)、柏木はそこまで「頭が良い」選手ではない。ああした場でこういうコメントを出すのは、「つい本音が出た」以外の何ものでもないと思っていた。だから、柏木についてはあまり心配していなかったのだ。

 柏木については、心配よりはむしろ「これで移籍するなんて言うなよな?」という苛立ちのほうが大きかったかも知れない。彼は五輪代表を本大会に導く活躍を見せたが、一方で所属チームを降格させた責任の一端が、少なくとも他選手と同等程度にはある。彼はまだ2年目だし、ユースから手塩にかけて育てた選手。Jでは目立った実績を残していない。そんな選手が厚待遇でホイホイ他チームに釣られるな、仁義を切れ、ということである。

 こうした話を書くと、自称海外通から「海外では若い選手でも移籍して当たり前」という意見が挟まれるかもしれない。確かに、海外では19歳や20歳の選手が派手な移籍をする。しかしその金額は、日本とはケタ違い。例えばウェイン・ルーニーエヴァートンからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した際の金額は、推定3750万ユーロ(約50億円)という天文学的な金額だった。

 一方、日本では移籍金算出のルールが決められており(要JFAページ参照)、「来季年俸提示額×移籍係数」の上限を提示され、本人の意向が強ければ、チームは移籍を容認せざるをえない。そしてその金額は、今回決まった年俸から見積もっても1億3000万程度。こんな額では穴埋めにもならないし、もちろん柏木級の選手は取れない。さらに海外のチームから誘われた場合、千葉の水野のように契約満了に伴い移籍金ゼロということがありうる。むろん複数年契約及び高額年俸で縛れば良いのだが、そこまで経営体力のあるチームはごくわずか。浦和のようなモンスターチームが「その気」になれば、幾らでも乱獲は可能だ。そうなった場合リーグのバランスは大幅に崩れ、魅力が失われる。だからこそ、現状では選手のモラールに訴えかけるしかないのだ。

 そうした現状を踏まえると、柏木は今回「仁義を切った」と思う。五輪イヤーにも関わらずJ2での戦いを受け入れた、というのはそういうことだろう。単年契約ということで、来年はまた移籍騒動が再燃するかもしれない。しかし、彼自身にも責任の一端があるJ2落ちを、自身の責任において雪ぐ決断をしてくれたのは喜ばしい。今年1年、五輪代表も含めて彼のプレーを追っていきたい。

 駒野の件については別エントリーで。