音楽版“俺ミシュラン”2007その3

■2位:マキシマムザホルモン絶望ビリー

 1位と同様、音だけでなくPVや歌詞、彼らのビジュアルも含めたトータルイメージとしての評価です。こいつらの「偽ダサ」なカッコよさは、ハンパじゃないっす。あ、ちなみにPVには途中まで本人たち出てきません。

 正直、音楽的にはそれほど新味はないと思います。もちろん、それは質が低いということではなく。メタラーらしく全員バカテクで、ドラムのナヲは高速三連譜をかましながらコーラスを歌うという人間業とは思えないことをやる。ベースのレッチリバカ上ちゃんのペキペキチョッパーも、ダイスケはんのデス&キャーキャーボイスも、マキシマムザ亮君メロコアな性質もかっこいい。4人全員がボーカルを取れて、ダイスケはんの2つの声質を含めると5通りのボーカルがある、というのは強みです。が、まあこれだけなら他のバンドにも多かれ少なかれある特徴でしょう。

 それでは、何が彼らを特別な存在にしているか。僕は、マキシマムザ亮君の歌詞制作能力だと思います。とにかく、この人の作る歌詞は面白い。洋楽のように「音」として聴こえるような音節を選び、それに合わせて日本語を載せている。手法としてはサザン桑田や椎名林檎がよく使うもので、ありふれてはいる。ただすごいのは、マキシマムザ亮君はそこに「意味」を非常に幅広く持たせていることです。

 今回紹介する「絶望ビリー」は、アニメ版『デスノート』のEDとして書き下ろした曲。タイトルからするとまったく分かりませんが、実にうまく作品世界を反映していると思います。以下リンク。

 http://music.yahoo.co.jp/shop/p/53/15919/Y040532

 『デスノート』は「ノートに名前を書かれた人物が死ぬ」という設定で、たまたまそのノートを拾った主人公の夜神月(やがみ・らいと)が、法律の手から逃れた凶悪犯罪者を「自らの手で裁いてやる!」というストーリーです。その主題について、マキシマムザ亮君はたった四語、

> 免罪のワールド 制裁のワード

 これだけで説明しきっている。壮大なイメージを、言葉数を無駄に費やさず、しかしダイレクトに受け手に伝えきる。これは広告コピー作成の手法と通じるところがあります。

 他にも、「退屈な死神が落とした一冊のノート」で「次々と人が死んでいく」様は、こう表現されている。

> 世の中に潜み落下した「アレ」はねえか?
> 誰が書き換える世界の汚れは?
> 消滅の連鎖にざわつく下界
> マスター 抹殺 運命の自爆

 ちゃんと韻を踏んでいて、歌詞としても成立している。編集者としてみても、マキシマムザ亮君の言葉選びは実にうまいと思う。彼はミュージシャンじゃなかったら、コピーライターとして大成していたんじゃないでしょうか。

 こんなにカッコいい文化的な営為を行っている彼らですが、しかしそのダサさたるやハンパじゃない(笑)。マキシマムザ亮君は便所サンダルを愛用するハグリッドそっくりな大男、ダイスケはんはハゲに悩まされる関西人、上ちゃんは寡黙な鬱ベーシストでレッチリバカ(各メンバーのタトゥーが全身に入っているほど)、そしてナヲはマキシマムザ亮君の実姉でデブから小太りを経てやっぱりデブに戻った。バンド名はただメンバーが肉好きだったから付けられたもので、ライブでの合言葉は「三度のメシよりメシが好き!」。

 面白すぎです、こいつら(笑)。カッコいいことを、カッコよくやるのは、ある意味誰でもできること。しかし「本来人間はダサいもんだ」というところからスタートして、ダサさを隠すどころかむしろギミカルなほどに強調して、それでもまだカッコいいというのはすごい。いやー、1位がいなけりゃ文句なしに1位でした(笑)。