中村俊輔は天才か


 周知のように、グラスゴーセルティック中村俊輔が、マンチェスター・ユナイテッド戦で素晴らしいFKを決めた。そのこと自体は、ある種の驚きを持って迎えられるものだった。日本人選手として初めての、そして2度目となる得点が、いずれもチャンピオンズリーグという舞台であること。強豪マンU相手のものであること。そして、彼一流のFKによるものであること、である。



 ただ、彼の技術を知る日本人にとって、それほど「驚く」ことだろうか、と思う。身体全体をしならせ、軸足をやや傾けさせ、かつインフロントキックでボールの中心を外さずに蹴る。この蹴り方によってボールは強い横回転と、同時に下からの強い浮力を得ることができる。インフロントキックそのものは普通の技術だが、ボールに対する足の侵入角と軸足の傾きが特殊であるため、ボールの軌道もまた特殊となる。こうして中村は、「曲がりながら落ちるスピードボール」を生み出すことを可能としている。この蹴り方は、デイビッド・ベッカムと並ぶ極めて特殊な蹴り方である。


 彼のキックが世界でもトップクラスであることを、日本人が今回の件で初めて知ったはずはない。くだんのキックに関しては、「中村のキックを見たか」言っておけば良い。「どっこい、日本人は使えるんだ 」などと、なぜ欧州をおもねるような発言をせねばならないのか。中村のFKが世界トップレベルにあることは、セリエAでもコンフェデ杯でもスコティッシュ・プレミアリーグでも証明され続けている。オシムの言葉にもあるが、ドイツW杯における成績で「自信を失くす」ような日本人は、「世界との距離を正確に把握していない」のである。


 ところで、表題の件である。中村が活躍するたびに、僕は「努力の素晴らしさ」を感じる。だが、「天才性」を感じることはできない。なぜなら、彼のFKは天性のものもあろうが、高校時代に1日500本ものFK練習を欠かさず積んだ結果習得したことも広く知られているからだ。


 それゆえに、彼を天才と呼ぶことには、良い意味でも悪い意味でも気が引ける。彼のFKを「天才」と呼ぶことは、彼の努力の積み重ねを否定するように感じる。同時に、オンプレー時における彼の動き、オンザボール時のフェイクやドリブルテクニックなどは、その努力の賜物である「左足のキック精度」が、相手に脅威を与える結果だと思うからだ。現に、彼の右足のキック精度は、「左足を切られる」経験を積み重ね、それに対応するためにやはり研鑽を積み重ねた結果得られたものである。


 しかし、それを言うならば、努力の研鑽なしに技術を得た「天才」プレーヤーなど、どの世界にもいない気がする。だから、これはあくまでイメージの話である。中村が淡々とFK練習をこなす姿は、大工が黙々と鉋でケバだった木材を薄く削る姿にダブる。ロナウジーニョロビーニョ小野伸二といった選手がボールと楽しそうに戯れる姿は、求道者たる中村には重ならないのである。

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