J1第29節G大阪vs.清水雑感

http://www.tbs.co.jp/supers/game/20061029_4108.html

 3-0。内容的にも、G大阪の完勝、という風に一応結論づけることはできる。ただ、遠藤欠場という面を差し引いても、G大阪の「リスクテークのなさ」はちょっと心配になった。


 実際、この勝利を呼び込んだのは後半14分のシジクレイの得点が全てといえる。CKから藤本、青山のマークが重なったところでフリーになったシジクレイが頭で決めたもの。


 これで、ガンバはリスクを犯す必要がなくなった。逆に清水はリスクを犯して攻める必要が出た。それによってガンバの狙うハーフカウンターが「ハマる」状況が整ったわけである。追加点となった2点は、そういう状況で生まれたものであった。


 前半は、徐々に膠着する展開。序盤こそガンバが何度か決定機をつかんだものの、その後清水が2トップへのマーキングを修正したことでクロスにしっかり対応できるようになり、チャンスが生まれにくくなった。そして、膠着した。その要因は両チームのフォーメーションと、ガンバの家長昭博加地亮に対する清水の対応が挙げられる。


 ガンバのフォーメーションは3-5-2で、家長が左、加地右のアウトサイド。一方の清水は4-4-1-1で、チョ・ジェジンが1トップ、マルキーニョスが1.5列目に置く布陣。


 ガンバは攻撃時に橋本、明神からサイドに走りこむ家長や加地、特に家長の足元にサイドチェンジ気味にパスを送り、相手SBと相対させる形でボールを持たせ、ドリブルで突破させてクロスという形を狙った。一方で守備においては1トップに対し常に3バックが居残ることで、形式上の数的優位は保たれ、実際崩されるケースは1度きりしかなかった。


 清水は家長の突破力に手を焼き、右サイドバックの市川がほぼ専属で家長を見る形になり、結果右サイドの攻め手を失う。反面で4バックがほぼ居残ることで、CBは数的優位を保ち、中央のマグノ・アウベス、播戸へのマークをしっかり確認することができた。


 つまり、ガンバは意図して守備の数的優位を保っているが、清水は「結果的に保たれている」という形になっている。ガンバはリスクをあまり冒さず、両アウトサイドの突破からのクロスに2トップと二川を絡ませて1点、を狙っているということ。攻めているのはガンバだが、「より守備的」なのもガンバのほうだったりする。


 一方の清水は、1トップのチョ・ジェジンが左に流れた際、相手DFシジクレイと加地のマークの受け渡しのミスを突いてフリーになり、ポストに当たる左足シュートを放つシーンがあった。こういう受け渡しのミスを突けば、構造的に浮きがちな1.5列目、センターハーフの2名はかなり有利な形でエリアに突っ込んでいける。前半において「チャンスの芽」があったのは、むしろ清水だったりしたのだ。


 それだけに、先制点は大きな意味を持ったというのは前述の通り。あとは論理的な展開。ガンバの3バックと2ボランチが完全に引き、前半に浮くシーンもあったマルキーニョスへもしっかりマークがついたため、清水はクサビを打つたびにボールを奪われ、カウンターを受けることとなった。ハーフカウンターの形ならば、ガンバはとにかくマグノ・アウベスと播戸、二川の距離感さえ保たれていればフィニッシュまで持ち込む力がある。この形にはめられれば、いかに清水といえど対処のしようがない。「先制したガンバ」を止められるチームは、現在のJにはほとんどいない。先制した試合の勝率84.2%という数字がそれを物語っている。


 追加点は2点とも「ハマった」形から。後半32分、中盤でパスカットした明神が素早くターンして前を向き、DFラインの裏へクロスパス。ラインがそろっていない一瞬を狙ったマグノ・アウベスが抜け出し、追いすがる市川を振り切って左足でズドン。

 さらに後半44分、DFラインからのクリアボールをそのまま拾った播戸が右サイドを抜け出し、注意深くルックアップ。引いて受ける動きをしたマグノ・アウベスに慎重にパスを通し、3点目に繋げた。


 この勝利で、ガンバは浦和に勝ち点3差に迫る2位となった。遠藤抜きでここまで持ち込んだことは、賞賛されるべきだ。


 一方で、この勝利によって、「どうリスクテークするか」という問題が先延ばしにされた感は否めない。流れの中でどうリスクテークしていくか、ガンバの場合は詰まるところ「クロスに飛び込む人数をどう増やすか」「明神・橋本がどうバランスを崩すか」に尽きる。クロスに飛び込む人数が多くとも3人というのでは、中央にブロックを作られた状況では得点には繋がりにくい。


 また、より深刻なのは「流れを変えるコマの不在」だろう。この試合ではフェルナンジーニョがモチベーションを下げたという理由で、ベンチからも外れた。現在のガンバは、本来「流れを変える」役割だった家長を先発させたことで「流れを変えるコマ」が事実上ない状態。今後の対戦相手は鹿島、千葉、福岡、京都、そして浦和。そのうち、今日の前半のような戦い方で先制できる相手がどれだけいるか。それはつまり、どれだけ確実に勝ち点3を手にできるか、という問題にも直結する。播戸もかなり金属疲労がきており、一歩目のキレをなくしつつある。選手層の薄いガンバにとっては、勝ち点3と同様に「流れを変えるコマ」の復活は必須ではないだろうか。


「勝利は時に問題を覆い隠す」という言葉は、オシムの専売特許でなく、あらゆるスポーツにおける真理である。清水相手の勝利は大きい。しかし、ガンバの不安要素を打ち消すものではなかった。今節浦和は磐田に敗れたが、彼らは「崩れた」わけではない。田中マルクス闘莉王が復帰すれば、再び安定して勝ち点を積み重ねるだろう。


 ガンバは、最終節の直接対決まで1つも勝ち点を落とせない。そのとき、浦和を追うだけの「末脚」を持っているかどうか。その点に非常に不安を覚える勝利でもあった。


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