J1第25節甲府vs.G大阪分析[上]


●「ヒヤヒヤの番狂わせ」

 なんという形容矛盾だろう(笑)。だが、試合展開をみるに、その言葉が非常にシックリきたので使わせてもらう。終盤の甲府は、危なっかしくて見ていられなかったからだ(笑)。


 とにかく甲府は、「ゲームを作る」ことにしか興味がない。「時間を稼ぐ」「相手を下げさせる」「ゲームを壊す」ことなど一切考えない。甲府のプレーコンテンツには「ゴールを目指す」「ゴールを守る」以外の中間がほとんど存在しない。プレーが単純なのではない、戦略が単純なのだ。だからこそ見るものに清清しさを与えるし、また危うさを与える。「首位のG大阪に勝ったのだから、良いではないか」と言われて何も言い返せないのは、こういうチームだからこそだろう(笑)。


 ただ、当ブログでは少なくとも自チーム(広島)以外はどちらかに肩入れせず分析していくつもりなので、今回もつとめて客観的な分析を心がけたい。


●ローギアでペースをつかむ

 現在リーグ戦10試合負けなしのG大阪は、前節では川崎を4-0で打ち破るなど絶好調。しかしその試合で加地亮をケガで欠き、代役にはなんとFWの前田雅文を右サイドバックに起用。西野朗監督は、好調の要因である明神・橋本のボランチコンビに手を加えず、「右サイドをより攻撃的にする」という最低限の変更をしてきた。一方の甲府は、出場停止の山本正臣に代えて井上勇機を起用したものの、それ以外は0-3で敗れた前節新潟戦と同じスタメンを起用した。愚直にラインを押し上げる甲府のスタイルでは苦戦が予想されたが、試合は意外な立ち上がりを迎える。


 序盤、試合は全体的に静かな立ち上がりとなった。要因は、両チームの守備意識の高さ。中盤でボールを失うと、前線が下りてきてプレスを掛ける。ラインはともにあまり上げない。どちらも呼び込んでカウンターを狙っているのだ。新潟戦で早々に失点し苦境に陥った反省か、甲府大木武監督は序盤はローギアでスタートする戦略をとった。


 G大阪播戸竜二にボールが入れば攻撃のギアを上げ、右サイドの前田を使ってクロスを上げる。一方、甲府はその裏を狙う。新潟戦でも説明したように、甲府は3トップの左にバレーを起用し、ポジションチェンジによるマークのずれを狙う。だがG大阪が前田を積極的に攻撃参加させたことで、必然ヨコにズレたバレーとシジクレイのマッチアップが多くなった。


 その中で、徐々にペースを握ったのは甲府だった。原因は、G大阪の中盤に運動量が足りなかったこと。明神と橋本はパスを出した後に攻撃参加するケースがなく、必然的に前線が孤立気味となり、甲府にボールを奪われるケースが目立った。


 原因は幾つかあるが、やはり甲府が前線に人数を掛けていること。カウンターから茂原岳人のドリブル、バレーのスピードを警戒し、DFラインは低めの位置を取る。この状況では、明神と橋本は攻撃参加を自重せざるを得ない。必然、G大阪は中盤のパスコースをなくし縦パス一本の展開になり、14分過ぎから甲府がポゼッションを握るようになった。


 そして18分、シジクレイがバレーを倒して得たFK。ゴールから30Mやや左の位置でアライールが蹴ったFKは、予想よりも高く上がり、GK藤ヶ谷陽介は落下位置を予測できず動けない。このボールをファーポストで待ち構えたビジュが頭でかすらせてゴールに押し込んだ。


●「やり返す」第1ラウンド


 もっとも、G大阪もただやられているわけではない。後ろでボールを動かしながら穴が開くのを待ち、一瞬のスピードを持つマグノ・アウベスに縦パスを通すチャンスをうかがう。はたまた、サイドチェンジから横にボールを動かし、相手のゾーンを開かせ、二川の突破力を使おうとした。


 実際、その形からG大阪は一旦はペースをつかみかける。29分、遠藤のサイドチェンジを受けた二川が右サイドを突破しクロス、中央の播戸に通りかける。さらに34分には、やはり右サイドの二川のクロスから、ファーポストでフリーで待ち構えたマグノ・アウベスの元へ。余裕を持って左足を振りぬいたが、これは間一髪で林健太郎が左足を伸ばし、CKに逃れた。


 だが、甲府はここでひるまなかった。37分、左サイドを茂原岳人がスピード溢れるドリブルで駆け上がってボールキープしクロスを入れると、ここからペースは再び甲府へ。その2分後には、右サイドバック杉山新のクロスボールをFW山崎光太郎ニアポストに飛び込みヘディングシュート。さらに42分、ハーフライン付近でマグノ・アウベスからボールを奪ったバレーが、そのままボールを持ち上がり40メートル近くを独走しシュートを放つ場面もあった。結局、前半はこのまま1−0で終了する。


 さすがに若干守備的ではあるものの、甲府の「やられたらやり返す」という清清しさには一片の曇りもない。ペースを握られそうになったら、小ざかしいことはせず「仕掛けて奪い返す」のみ。一本調子といえばそれまでだが、その一本調子をG大阪相手にできるチームがどれだけいるか。


 だが、勝負の世界において「清清しさ」は必ずしも美徳ではない。1点を奪えば勝負を決する予感があったが、奪われれば一気に決壊する予感もある。甲府に漂っていたのは、「美しく壊れる」予感だった。


 その状況が打ち破られたのは、後半開始すぐのことだった。

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