J1第24節G大阪vs川崎(4-0)[下]

このエントリーは、http://d.hatena.ne.jp/KIND/20060925/p1の続きです。


-<そして、“事件”は起こった>

 先ほどのエントリーで動画は紹介したので、ここでは省略。

 マギヌン加地亮に対して行ったことは、暴行でしかない。一歩間違えば加地は複雑骨折などの大怪我を負い、選手生命すら脅かされた危険もある。問答無用の一発レッドであり、“狼藉”というほかない。カッとなったこととはいえ、マギヌンには猛省を促したい。

 もっとも、このイライラを誘ったのがG大阪の堅牢な守備ブロックにあったことは事実である。
 
-<残酷なる先制点> 
 さらに川崎をアクシデントが襲う。29分、ジュニーニョがハムストリングを痛め原田拓と交代。前線でタメを作り、独力でゴールをこじ開けるスーパーな存在がいなくなったことで、川崎はさらに大きな痛手を負うこととなった。
 
 川崎は我那覇和樹のすぐ下に中村憲剛を上げ、ボランチに原田と谷口博之を並べる。しかし川崎は決定的なアクシデントが続き、明らかに混乱しつつあった。31分には、血の気の多い谷口が橋本英郎へのレイトタックルを仕掛け、警告を受けてしまう。それでも川崎守備陣は、箕輪義信を中心とした3バックが踏ん張って相手の攻撃をはね返し続け、徐々に落ち着きを取り戻そうとしていた。
 
 先制点は、そんな時間帯に生まれた。36分、左SB山口智が左に張った二川孝広に縦パスを送ると、そのままオーバーラップ。対面の森勇介、カバーに入った谷口の視線を引き付け、素早く二川に戻す。前を向いた二川は、インステップでミドルシュート。GK相澤がこぼしたところを、播戸竜二が詰めて先制点を奪った。テレビでは盛んに「詰めた播戸」が褒められているが、複線となった山口のオーバーラップにも注目したい。

 1人少ない上にジュニーニョを欠いた川崎にとって、残酷な失点だった。アプローチにミスがあったとはいえない。むしろ山口の動き、二川のシュート、播戸の抜け目なさを褒めるべきゴールだ。だが失点は失点。それでも前を向いていくしかない。

 川崎は失点してからもやり方を変えず、FW我那覇に当てて起点を作り、中村に預けて展開を試みる。41分には、我那覇のキープから中村憲剛が2人をドリブルでかわそうとするなど、形はできつつあった。だがDFラインの押し上げが少ないため、攻撃に厚みは出ない。数的不利な状況の上、播戸とマグノ・アウベスが常にラインの裏を取ろうと意識しているため、無理もない話である。



-<G大阪、王者の風格>


 一方、G大阪の戦い方は見事だった。相手が1人少ないからといって、浮つくことがない。成熟していないチームはえてしてドリブル勝負を仕掛けたり、不用意に攻め上がったりという「ナメた」プレーが生じる。

 だが、G大阪にはそれがない。1人多い状況で1点リードしたのだから、じっくりとDFラインでパスを回し、相手を追いかけさせ、体力の消耗を狙う。攻撃時はサイドに基点を作り、中のDFを引っ張り出し、中央を薄くしてからクロスを入れる。ワンタッチ・ツータッチを基本とした、スピーディなパス回しに変わりはない。強靭なディシプリンと、それを「主体的に」守ろうとする(だからこそ「主体的に破る」プレーが生まれる!)選手のバランスが非常に良いのだ。

 結局、前半はG大阪が完全に制圧して終えた。


-<最善を尽くす川崎、踏み潰すG大阪


 後半開始直前のインタビューで、G大阪西野朗監督、川崎の関塚隆監督は奇しくも同じ事を述べていた。「アミを張ること」「リスタートで点を奪うこと(関塚)/注意すること」である。

 実際、川崎の攻め手は殆ど限られている。我那覇のキープから中村に落とす、といっても、サポートがなければ中村のドリブルに期待するしかない。しかし播戸とマグノの脅威にさらされるDFラインに、多くは望めない。だからこそ、リスタートは非常に欲しいところ。セットプレーならば人数は関係なく、高さに勝る分川崎にチャンスがあるからだ。
 
 だが、その目論見は後半開始1分足らずで潰えた。46分、ゴール前で伊藤宏樹が痛恨のクリアミス。これを拾ったマグノが、うまくプルアウェーの動きでフリーになった遠藤にパス。遠藤は、逆サイドの二川にフワリとしたダイレクトパスを送る。これを二川が右足アウトで巧みにコントロールし、最後はGK相澤の股間へ流し込んだ。一連のG大阪の技術は言うまでもないが、伊藤のクリアミスが余りに痛い。このレベルの試合においては、この手のミスは致命傷となる。

 いよいよ苦しくなった川崎は、ここから賭けに出る。49分頃から、川崎は1トップ我那覇の下に中村、谷口を並べ、原田を中盤の底に置く3−1−4−1に変更。あえて中盤守備の枚数を減らし、谷口の飛び出しに賭けたのだ。いかなる不利な状況においても、最後まで勝利へ最善を尽くそうとする川崎の姿勢は見事である。
 
 しかし、この算段をあっさり踏み潰すのがG大阪の恐ろしさ。51分、右サイドでボールを受けた二川が(本来谷口がカバーしていた)中央のスペースへクロス。これを受けた遠藤が、DFライン裏で勝負を仕掛けた播戸にスルーパス。一旦はカットされたものの、遠藤はこのボールを足の裏でなめるようなタッチで引き寄せ、右アウトで真横にいたマグノ・アウベスにパス。得点に飢えていたマグノ・アウベスは、思いのたけをぶちまけるように右足を強振し、クロスバーの下を直撃してゴールに飛び込む強烈なシュートを叩き込んだ。賭けに出た川崎にとっては、どうしようもない失点である。


-<獅子欺かざるの力>


 事実上、この3点目で試合は終わった。だが、G大阪は攻撃の手を緩めない。3点目が入った直後から、G大阪は前線のプレッシングをより強め、DFの枚数さえ減らして攻撃に出た。66分には、右サイド加地からのクロスに宮本恒靖が飛び込むなど、G大阪はDFを積極的にオーバーラップさせていた。
 
 一見無謀な攻め上がりに見えるが、前線に我那覇1人という状況でバックスが全員残る必要はない。この攻め上がりは、リスクマネージメントの上に成り立っている。昨年のような「攻めダルマ」でない、穴の少ないチームになった証拠といえる。

 そして71分、止めの4点目。那覇チョン・テセへのクサビを明神がカットすると、こぼれたボールをオーバーラップしていた山口がつなぎ、最後はマグノ・アウベスが追いすがる松下裕樹を振り切ってGKとの1対1を制した。本来のポジションでない左SBにも関わらず、当意即妙に攻撃参加して、2点に絡んだ山口の動きは影ながらMVP候補としても良いほどである。

 試合はこのまま動かず、タイムアップ。スコア上は「単なる虐殺」に見えるが、その見方は半分正しくない。川崎は、最後まで得点を目指してプレーした。関塚隆監督が、1人少なくなった段階で「下がれ」と指示せず、ポジションの移動を最低限に止めたこと。攻撃の選手を下げず、あくまで同じバランスで勝負したこと。水曜日の千葉との激戦による疲労もありながら、川崎は最後まで守りに入らなかった。だからこその大敗である。胸を張るのは難しいだろうが、下を向く必要はない。

 ただ、その駆け引きをすべて食い破られたG大阪には、「地力の差」を見せられた感もある。川崎が急成長しているとき、G大阪もまた王者としての風格を見に付けていた、ということなのだろう。
 
 
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