海外移籍に関する私見

 ところで、僕は日本人の海外移籍に対して賛成派です。といっても、単純に「何でも海外に行け」ではありません(かつてはそうでしたが)。

 要は、「きちんとリスクヘッジをしてから逝けよ」ということですね。

 日本人が海外へ移籍するケースは年々増えています。が、皆さんご承知のとおり、それらすべてが成功しているわけではない。「チームのレギュラーとして1シーズン以上を過ごした」を成功の条件とするならば、それを満たせるのは中田英寿ペルージャパルマ時代)、中村俊輔レッジーナセルティック)、小野伸二フェイエノールト)、中田浩二バーゼル)、松井大輔ル・マン)、平山相太ヘラクレス)ぐらい。

 ただ、海外移籍というのはステップアップのために行くわけですから、現在のクラブでの活躍を足がかりにビッグクラブへ行った選手となると、中田英ペルージャ⇒ローマ)、中村(レッジーナセルティック)しかいない、というのが現状ではないでしょうか。

 そうなると、やはりチーム選びは非常に重要といえます。中田英の場合、1998年W杯終了後に10数クラブからオファーがあったようですが、その中で自分のプレースタイルを最も活かせ、かつ大きなライバルがいないペルージャを選択しました。その後の活躍はご存知の通り。彼自身の力量に加え、試合出場を妨げられるほど大きなライバルがいなかったこと(ピエトロ・ストラーダという選手はいましたが)が、1シーズン目からレギュラー獲得できた大きな要因として挙げられます。つまり、中田英のケースでは『適材適所』が大きなキーとなっているわけです。

 しかし、それ以外の選手は中田英ほど選択肢がなかったこともあるのでしょうが、中田英ほど精査の上でチームを選んだ形跡はありません。例えば中村は必ずしもイタリア向きの選手ではなかったですし、城や西澤、柳沢といった選手はいずれもFWにライバルがいるチームへの移籍となり、十分な活躍はできませんでした。

 今シーズンにトリノに移籍した大黒に関しても、同じような感想を覚えています。トリノはFWコナン、FWムッツィという強力なFWを備え、さらにトップ下にMFフィオーレという実力者をそろえています。FWにせよトップ下にせよ、大黒がスタメンを勝ち取るためにはかなりの頑張りが要求されます。
 
 確かに、チーム内に競争があることは健全です。しかし、それは来シーズン以降にも比較的再チャレンジできる可能性が高い国内選手の事情。「助っ人」であり、かつ「ステップアップ」を狙う選手にとって、スタメンを確保できない環境が良いとはいえないのではないでしょうか。

 もっとも、僕自身は「それでも行く」という選手を止めるつもりは全くないです。やはりサッカー選手の寿命は短く、チャンスはそう多くないから。傍目からはいかに無謀な挑戦に見えても、「行けるときに行く」という気持ちを尊重したい。
 
 ひょっとしたら、行けるチームは1チームしかないかもしれない。来年もオファーがある保証はない。そうなれば、リスクヘッジも何もない。あとは、本人の気持ちを優先するべきでしょう。
 
 代理人含めた周囲の対応は、考えうるリスクを提示し、本人に考える余地を与えること。その上で、その決断を尊重すること。サッカー選手におけるリスクチャレンジとは、そういうものではないでしょうか。