ペトロビッチ監督のメリットとデメリットを比較してみる。---そもそもなぜJ2降格したのか?(2)

KIND2008-09-27

 さて、こちらの続きです。

 http://d.hatena.ne.jp/KIND/20080926/P2

 このブログを「再開後に初めて読む」、という人はそう多くないと思います。というのは、このブログはJ.B.アンテナさんに登録して頂いており、そこから多くのアクセスを頂いている。J.B.アンテナさんからお越しの方は以前からの読者さんということで、このブログがサンフレッチェ広島を応援すると見せかけた

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 だということは重々承知でしょうが、改めてここで表明しておきます。

 現時点で僕は、ペトロビッチ監督を解任するべきだとは考えていません。この点については、一時に比べると軟化しました。

 彼に対する評価がそれほど変わったわけではありません。ただ、J2降格から10か月が経過した上で現状を再評価すると、「留任したうえで、デメリットを消し、メリットのみを引き出せる方法をとる」ことが、あらゆる面において効率的だと考えるからです。
 ここで、ペトロビッチ監督がチームにもたらすメリットとデメリットを実績ベースで整理してみましょう。

<メリット>

■攻撃サッカー、パスサッカーを植え付けた
⇒J2における成績とはいえ、35試合で勝ち点81、79得点27失点、得失点差プラス52を挙げた。いずれのデータでも2位のチームを大きく引き離している。

 確かに相手のレベルは低かった。だが、相手が低レベルだからといって常に大量点を取れるわけでもない。実力差がストレートに得点差に反映されることは、古今東西のサッカーを見渡してもそれほど「普通」でも「当然」でもない。「当然の結果を出した」ことについては、評価すべきだろう。

■特定の選手に依存しない攻撃を構築した
⇒例えばよく比較される2004年J2における川崎とは違い、特定の外国人選手に頼ることがなかった。得点者の分布を見ても佐藤寿人の21得点が突出するのはポジション的に当然としても、森崎浩司11得点、高萩洋次郎11得点、槙野智章6得点、平繁5得点、青山敏弘4得点、柏木陽介4得点と多くの選手が得点を挙げている。

 また、佐藤寿人が離脱しても、得点力が落ちなかった。第21節水戸戦では佐藤寿が代表招集のため欠場し、「0トップ」(スタメンにFWの選手を置かない布陣)で臨み、途中出場のFW平繁の2ゴールで逆転勝ちした。同じく佐藤寿が欠場した第34節岐阜戦でも、同様に0トップで臨み、こちらは7-1で圧勝した。 FWの選手は途中出場の久保竜彦のみで、得点者はすべてMF登録の選手という、ある種のすがすがしささえ感じる結果だった。

■若手が次々と台頭した
ペトロビッチ就任後に台頭し、そのままレギュラーをつかんだ若手選手は多い。

 2006年の就任直後、サテライトに甘んじていた柏木陽介、サブに入っていたものの出場機会が多くなかった青山敏弘をレギュラーに抜擢した。2人はその後、それまで選ばれていなかった五輪代表候補に選出され、柏木は日本代表候補にまで上り詰めた。2007年の途中からは槙野が徐々に出場機会をつかみ、平繁龍一高柳一誠、桑田慎一郎も出場機会を得るようになった。

 2008年に関しては平繁、森脇良太槙野智章高萩洋次郎を開幕から辛抱強く起用し続けた。平繁、森脇は負傷で離脱したものの、槙野と高萩はレギュラーポジションを確保。槙野はDFながら7得点、高萩はMFながら11得点という目に見える結果を残した。

森崎和幸を“再生”させた
小野剛監督解任後の2006年4月にオーバートレーニング症候群で戦線離脱した森崎和幸を、復帰後は右センターバックとして起用。練習中から辛抱強くコミュニケーションをとり、起用し続けることで“お前を信用している”というメッセージを送り続けた。ポジションはさておき、こうした起用は決して誰にでもできることではない。

<デメリット>

■守備を整備しきれなかった
⇒2007年のJ1で、最下位横浜FCより6失点も多い71失点を喫し、ダントツのワースト失点記録を作った。44得点獲ったものの、得失点差はマイナス27と大幅な赤字。

 34試合で71失点なので、平均失点はほぼ2点。つまり「2点取られて3点取るサッカー」とするなら「2点取られる」まではしっかり実現している。では、問題は「3点取っていない」ことなのか。攻撃陣は毎試合3点も取らねばならないのか。そんなムチャな。

 今シーズンも決して守備は盤石ではなく、時間帯によっては引きすぎるシーンもあった。9月20日横浜FC戦では、徹底してサイドの裏に起点を作られ、次々とアーリークロスを放り込まれることで守備陣がベタ引きに。勝ち点で42ポイントも引き離している相手に、15本ものシュートを浴びせかけられ何とか引き分けた。昇格を決めた愛媛FC戦でも後半途中からDFラインがずるずる下がり、後半43分にペナルティアーク付近で完全に相手をフリーにしてミドルシュートを食らった。

 本質的な部分で、守備の改善ができているかは疑問が残る。

■硬直した選手起用、交代策
⇒2007年では、守備崩壊の元凶となっていた部分に手をつけなかった。

 前線からのプレスをしないウェズレイ、佐藤寿に指示を徹底しなかったこと。それによって中盤に広大なスペースができたのに、終盤になるまで1ボランチ固執したこと。相手を簡単にフリーにするDFダバツ固執し、スピードに劣るMF戸田和幸リベロ起用、本来ボランチの森崎和をDF起用し続けたこと。それらの起用を、J2降格が決まるまで頑として続けた。

 J2降格後の天皇杯で森崎和をMFに戻し、ストヤノフリベロに戻したことで快進撃に繋がったのは皮肉としか言いようがない。

 2008年では、3バックに固執したこと。両サイドのリ・ハンジェ服部公太のプレーが決して万全ではなく、また中盤に良い選手が多いにも関わらず、3-6-1のフォーメーションを固持。4-5-1など、中盤の選手を多く起用し、右サイドに槙野などを試すことをしなかった(批判ではなく、事実として)。

 交代においても、0-0や1-1といった状況で先手を打つことはほとんどなかった。2007年では失点して初めてFW平繁を投入する、というケースが目立った。また、左サイドの服部を下げて桑田を投入するなど、練習でもほとんど試していない交代策を試し、いずれも芳しい成果を挙げられなかった。



 ということでデメリットとメリットを並べてみた。こうして見ると、やはりデメリットはきちんと改善されてはおらず、来シーズンにおける不安は増幅される気がする。

 しかし、だからといって現時点でペトロビッチを解任することが得策であるとは思わない。というのは、現時点で解任することで思いつくのはデメリットのほうが多いからだ。


<解任によるメリット>
・守備を改善できる「可能性がある」こと


<解任によるデメリット>
・新しくコストが発生すること
・サッカーの継続性への疑問
・選手間のフロント不信への危険
・他の監督候補から「J2優勝したのに解任?」という不審


 結果が出ている監督を解任することは、それなりにリスクがある。解任するなら2007年末にやっておくべきであって、いまのタイミングは適切ではない。また、良い監督を同じような条件提示で連れてこれるなら、やはり2007年末に行っていたはず。何より、本谷社長が「現在の成績のままJ1復帰を決めれば、更迭は基本的にありません」と明言している。現時点のサンフレッチェ広島には、あらゆる面において、すぐにペトロビッチ以上の監督を連れてこれる体制には「ない」と判断するのが自然かと思う。

 ゆえに、The best of the betterの解決策は、「ペトロビッチを留任させ、デメリットのみを消す方法を考える」ことだと考える。それはどういうものか。まあさほど目新しい案ではないし、「身も蓋もない」といえばそれまでだが、そこに関しては次回にまた。