ベンチが選手を助けていない、な横浜FC戦

 勝ったからいいようなものの、な試合が続くなあ。

 この試合に関して言えば、ピッチに立った選手たちは、十分にプレーできていたと思う。横浜FCは、アンデルソンを残して中盤5枚、DFライン4枚の計9枚で、恥も外聞もなくガチガチの引き分け狙いで守りを固めてきた。昨年ともにJ1から降格したチーム同士とは思えない、明らかに広島を格上と認めた、ある意味ではこちらに敬意を払ったサッカー。しかしまあ、普通に考えりゃ卑屈で退屈でどこの福田康夫媚中政策だ、みたいなサッカー。

 そんな横浜FCに対し、ピッチの選手は十分に戦った。
 まずは守備。基本的に横浜FCで怖いのは、アンデルソンへの縦パス一本のみ。ボールをつないで広島を崩す力はない。ゆえに、相手ボールのときよりも、味方ボールを不用意な形でロストしたケースのほうがピンチにつながりやすいという状況だった。

 槙野も森脇も森崎和もストヤノフも、ボール回しに参加しながらもきっちりとアンデルソンから意識を離さなかった。だからこそ、悪い形で奪われたケースではすぐに切り替えができ、アンデルソンの独走を許すようなケースはなかった。単純な縦パスが入るだけでファウルを与えたり、サイドから深い切り返しで抜かれたりはしたものの、それはアンデルソンの能力が高さ。失点はもちろん、まともにシュートを打たせていないだけで十分成功といえるだろう。

 攻撃に関しても、いつも通りピッチを広く使うことを心がけていた。狭い局面でパスを回し、相手の守備組織を引き付けたところでサイドを変える。あるいは少し厳しいながらも縦パスやクサビを通し、それに合わせて2人、3人が連動して動く。ペナルティエリア付近に行くほどスペースがない状況だったが、広島の選手は焦ることなく、相手の組織をどう揺さぶるかを冷静に考えた。佐藤寿人にクサビを入れるタイミングを伺い、逆サイドに走るリ・ハンジェ服部公太の動きを意識に入れながらも、どこで縦に勝負するかを考えた。そうした絶え間ない頭の回転と、パスを回す高い技術、そして動きの量という心技体がそろったからこそ、唯一の得点が生まれたのだと思う。

 もちろん課題はある。特にアタッキングサードにおけるハンジェのプレーに関しては、クロスの質こそそこそこあるものの、縦への仕掛けがないという部分で能力的な限界を感じる。また、青山の代役として起用された高柳一誠は、高い技術を試合で活かせていない。流れの中でフリーになりながら、より体勢が悪い高萩洋次郎にダイレクトでボールを返したり、転んでいる森崎浩司にダイレクトパスを返してビックリされたり。けれど、それ以外の部分で概ね選手はいつも通りよくやったと思う。

 それだけに目立ったのは。

 ベンチワークの拙さ

 鳥栖戦に続いて、この試合もペトロビッチ監督はかなり深い時間まで傍観を決め込んだ。相手が次々とフレッシュな選手をピッチに投入し、中盤守備・前線守備のメンテナンスを行っているにも関わらず。前線の佐藤寿人森崎浩司高萩洋次郎の動きが徐々に重くなり、攻撃に手詰まり感が出てきた、ほとんど鳥栖戦と同じ状況になっているにも関わらず。

 71分、ペトロビッチはようやく1枚目のカードとしてドリブラー平繁龍一を投入した。この時点で、平繁がうまく機能するならいい。しかし流れを変えるカードが機能しないケースは往々にしてある。そのため、二の矢をつぐ準備も必要なのだが、そういう考えはペトロビッチには基本的にない。あくまで「ピッチ上の選手たちで解決させる」という姿勢が貫かれている。相手の嫌がることを先手で打つ、という考えはなく、ゆえに選手交代は後手に回りがちだ。

 当然、時間稼ぎのための交代、という手法がとられるケースも少ない。85分に先制点が生まれたが、時間帯を考えればこの1点を確実に守る方策が必要。ピッチ上では森崎和・ストヤノフを中心にパスを回すコンセンサスが図られていた。だが、85分の時点で交代枠が2枚あるのだから、ここを利用しない手はない。警告を受けない範囲内で、じっくりと時間を使うには格好の状況だった。しかし2枚目のカードとして久保が投入されたのは、後半ロスタイム。もう1枚のカードは、切られることなく終わった。

 確かに最低限の結果は出ている。誉め言葉ではない。選手のレベルと選手層を考えれば、「最低限」というにすぎない、という意味だ。

 ペトロビッチは選手に自由を与え、つなぐ意識を植え付け、狭い局面で作りながらも常に広い視野を持つことを義務付けた。しかし相変わらず守備は未整備で、3バックはストヤノフがリーダーなのかすらよく分からず、ラインの高さの設定も選手任せ、「前線のプレスとDFラインの連動」という課題は相手とのレベル差もあり放置されたまま。簡単にいえば、「試合に送り出したら選手任せ」になっている。

 選手を送り出したら放置でいいなら、ベンチにはカーネルサンダースの人形でも置いておけばいい。ピッチ上の刻一刻と変わる状況を把握し、有効な手を考え、先手先手で打つ必要がある。少なくとも今年に関していえば、そうする義務がある。

 例えば今日の試合、連戦の谷間ということを考えれば、平繁の投入はもう少し早く、後半10分あたりでもよかった。それでもうまくいかない場合を考え、10分程度の猶予を持つ。その上で、さらにうまくいかない場合に、ターゲットになれる久保を投入する。それでも後半30分あたりになるだろうし、そうすればさらに攻勢は強められた。もちろん左足を持っているユキッチという手もあった。

 首尾よく先制できれば、そのまま逃げ切りを見ながら2点目を奪う体勢にも移れる。久保がいるだけで相手には絶好のけん制になる。ボールキープもきっちりできるし、平繁と2人を残せばカウンター時には十分な破壊力を発揮できる。何より、広島が守りに入れば、相手はかなり無理をしないと崩すことはできない。そして前がかりになった相手を突き崩すには、久保というカードは強力無比だ。

 いずれにせよ、広島は他チームより明らかに多いカードを抱えている。やり方次第で、相手に付け入る隙を与えないで勝つことは十分に可能なはず。しかし特にここ数試合の広島からは、バタバタしてどうにか勝ちきっている印象を拭えない。それは結局のところ、ベンチが選手を助けられていないからだ。

「選手の成長を促している」という反論があるかもしれない。しかし、1年でのJ1復帰を至上命題としながら選手を育成する、そんな余裕が広島にあるのか。ない。

 今年に関しては、何よりも結果が優先される。そのために打てる策はすべて打つことが必須。そして現状では、監督が打つべき策を打たず、選手が地力でなんとかしているケースがほとんどだ。

 重要なのは、まだ第一クールが終わったに過ぎないということ。さらに山形、鳥栖横浜FCと続けて相手がベタ引きで来た、ということ。比較的上位に位置するこれらのチームがこのサッカーを選択するなら、他チームはもっと引いてくるだろう。今後、これまでのように勝ち点が奪えなくなる可能性は高い。

 ここまでの戦いを見て、ペトロビッチが勝ち点が伸び悩む場合の打開策を持っているとはとても思えない。首位に立ちながら不安が消えない理由、J1に復帰してもまた去年と同じ轍を踏むだろうと思う理由はそこにある。

 ダバツの契約が満了した(挨拶にきたダバツをきちんとコールしたサポーターの姿勢には感動した)。新外国人DFをリストアップするのは当然だし、現状でストヤノフ級とはいわずとも、レギュラーを取れる選手が来れば、昇格はまず問題なくクリアできるだろう。しかし、J1に上がったとたんにトンボ帰りでは意味がない。再降格するようなことがあれば、今度こそ主力の大半が移籍するだろうし、それを引き止めるべき監督ももういないはずだ。

 J1昇格を確定した暁には、新監督候補の選定も進めておくべきだろう。リスクヘッジとして。クビを切る段階で「候補が望月コーチしかいない」「違約金を払えない」「ゆえに切れない」というようなドタバタは、一回限りにしてほしい。