「スジナシ」のフリースタイル


 サッカー好きの人にはぜひ観て欲しい、「芝居のフリースタイル」。


 フリースタイルと一口に言っても多種多様だが、このフリースタイルは「即興」であり「対決」の要素を含んでいる。さらに、「先手を取った方が主導権を握る」という部分にいたっては、お互いのリリックで相手を攻撃しあう「ラップのフリースタイル」にかなり近い。


 といっても、僕はラップに詳しくはない。せいぜい映画「8miles」でEMINEMが相手をとっちめるシーンや、元KICK THE CAN CREWKREVAが「B-BOY PARK」のMCバトルで3年連続制覇を果たしたとか、その程度の知識だ。それでも即興での掛け合い、スウィングしたときの快感、ノールックでスルーパスを出すロナウジーニョエトーが反応したときの恍惚感は分かる。「即興」には、人を揺さぶる普遍的な快感がある。


 google検索で「スジナシ」と打つと、『笑福亭鶴瓶とゲストが、台本(=スジ)ナシ・打合せナシ・NGナシのぶっつけ本番で「即興ドラマ」を演じるアドリブバラエティー。即興バトルを通して、演者の人間性をあぶり出す新趣向のトーク番組』とある。便利なので、そのまま使わせて頂く。「要するに、そういうものです」と(笑)。


 付け加えるなら、やはり「1対1の駆け引き」だろう。どう考えても無理な設定に、「誰が先にフレームインするか」というだけの打ち合わせ。笑福亭鶴瓶とゲストは、ともにその場その場で脚本を描いているようで、時には自分の脚本に相手を引き込もうとする。それを察したいずれかは、相手を陥れるワナを織り交ぜ、答えに窮した瞬間を見逃さずに畳み掛け、「仮の設定」を既成事実化してしまう。


 サッカーで言うなら、このやり取りは、首振りや視線のフェイク、ステップワークや上体の動きなどで相手を出し抜こうとするサイドハーフの駆け引きに似ている。ただ、「スジナシ」では相手を抜き去ってクロス、で終わるわけにはいかない。主導権を握りながらも、相手を「共演」させる必要がある。このサジ加減の微妙なところが、非常にスリリングだ。


 僕が見た回は、妻夫木聡がゲスト、宮藤官九郎が設定を担当したスペシャルバージョン。設定は「部室」なのだが、かろうじて「スポーツ部」という看板があるだけで、何の部活かは分からない。とはいえ、6畳程度の室内は散乱しており、2列に並べられたロッカーは落書きだらけ、天井にはエロピンナップ、机にもエロ本が置かれている。どう見てもただれた、男くさい部室になることは想像できた。


 傑作だったのは、部室に竹刀を持って入ってきた鶴瓶に、妻夫木が開口一番「親父!」とかましたこと。この先制攻撃に動揺した鶴瓶は、小道具だったはずの竹刀を投げ捨て、「親父役」を受容させられてしまう。これで、「攻の妻夫木、守の鶴瓶」という構図がほぼ確定した。漫談でも高座でも変わらないが、やはり「つかみ」は非常に大切。妻夫木のプレッシングに鶴瓶が受けに回る瞬間は、現代サッカーにおける「攻」と「守」が生まれる構図に非常に良く似ている。残りの部分をいうと面白くないので、詳しくは本DVDをレンタルするなりして確かめて頂きたい。


 それにしても、25歳という若さにも関わらず、妻夫木聡の即興性はたいしたものだと思う。唐突に出てくる「オヤジ!」の台詞、即興でエロ本を持ち出してストーリーを作り、鶴瓶を完全に「ダメオヤジ」としてしまったシーンなど、芸歴で上回る鶴瓶を要所要所で圧倒する「ストーリーメーク」をやってのけた。連続TVドラマ18本、映画出演作18本というキャリアを感じさせるものだった。


 僕がサッカー選手に見たいのもこういう「即興性」なのだが、残念ながら日本には「台本に忠実」な選手のほうが多い印象がある。確かに現代サッカーには制約が多いが、「芝居のほうが自由度は高い」というわけでもないだろう。妻夫木聡と同い年の選手では中村憲剛(川崎)が、1歳下には松井大輔ル・マン)がいる。彼らには、「妻夫木的」(笑)な即興性を感じることが多々ある。彼らのような選手がもっと頑張って、日本のサッカーシーンをリードしてくれれば、と思う。


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