岩本輝雄はプロフェッショナルだ


 元サッカー日本代表MF岩本輝雄が、ニュージーランドのオークランド・シティと7週間の短期契約を結んだ。詳細は、オークランド・シティ公式HPよりご確認のほどを。なお、この契約は三浦知良選手のような「ゲストプレーヤー枠」ではないが、世界クラブ選手権用のイレギュラーな契約という点で本質的に変わりはないだろう。

AUCKLAND CITY SIGN FORMER JAPANESE INTERNATIONAL
The 34-year-old midfielder has joined the New Zealand Football Championship titleholders as a “marquee player” until the conclusion of the FIFA showpiece in Iwamoto’s home land from December 10-17.


Iwamoto’s seven-week deal means he will be eligible to play five NZFC matches prior to Auckland’s Club World Cup debut where they have drawn the yet-to-be-decided champions of Africa in their opening match in Toyota City on December 10.


 世間では、岩本輝雄というサッカー選手は「終わったこと」になっている。仕方のないことだ。事実とは、報道されてはじめて存在するものとなっている。報道されないことは「なかったこと」になっている。「単純接触効果」の原理から考えても、人間の心理として当然のことだ。


 だからこそ、「書かれていないこと」あるいは「サラリと書かれていること」に注目する必要がある。リテラシーというのは、一言でいえば「鵜呑みにしないこと」だと思う。要するに、「書かれていないこと」にもきちんと思いを馳せないといけないわけだ(そういう意味で、“脳内スキャン”という言葉は大変思慮の浅い単語だと思う)。


 少なくとも岩本輝雄は、約半年の間一緒に仕事をした限りで言うと、サッカーに関する限りホンモノのプロフェッショナルだった。


 手術に失敗したり、骨折した箇所が間違ってくっついていたり、そういう不幸に見舞われ、大好きなサッカーから2年もの間遠ざけられた。今年で34歳。普通だったらとうに引退している。年齢を感じさせない甘いマスクに、天真爛漫で純朴なキャラクターをもってすれば、TV関係のオファーはいくらでも舞い込むに違いない。実際、NHK-BSの『街道てくてく旅〜東海道五十三次完全踏破〜』を観て、ファンになったご年配の方は多いと聞く。そういう風にして賃金を稼ぐ方法は、少なくとも2年もの間リハビリを続けるよりはるかに簡単なことだ。


 だけど、テルは違った。何度も心を折られそうになりながら、それでもリハビリを続けた。プロとしていつでもカムバックできるように、自分に厳しい節制を科し、筋力と体力の維持に専念した。丸2年も現場から離れているにもかかわらずだ。


 テルが成功できるかどうか、それはまだ誰にも分からない。彼は、オークランド・シティどころかニュージーランドという国自体に馴染みがないはず。10月29日に出発ということは、コンディション調整を考えても11月4日のWaikato FC戦に出場できるかどうか、というところ。世界クラブ選手権は12月10日に開幕するため、テルは約1カ月、たった5試合の間でチームメートの信頼を勝ち取り、レギュラーを奪わないといけない。


 客観的にみれば、危険な賭けだ。2年間のブランク。34歳という年齢。それに、いかに優れたプレーヤーであったとしても、「試合勘」というものはどうにもならない。その復帰戦が、未体験のニュージーランドリーグ、そしてJより何ランクも上の世界クラブ選手権である。仮にリーグ戦に出場できたとしても、監督の考えにそぐわず、ベンチ要員になる可能性すらある。そうなれば、テルは完全に「ピエロ」そのものである。彼の年齢を考えれば、そんな汚名を返上する「次の機会」があるかどうかは分からない。


 そのすべての事情を勘案したうえで、彼はオークランド・シティという舞台を選んだ。そういう人間を、自分はプロフェッショナルだと思う。


 諸事情あり、残念ながらこの大会を取材することは叶わない。だが、短い期間ながら仕事をともにさせて頂いた人間として、岩本輝雄の成功を心から祈りたい。

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