サンフレッチェ広島vs.大宮アルディージャ 雑感

 一つだけ言えることがある。今日の試合結果で「このサッカーでは戦えない」と思うなら、今シーズンは広島の応援を辞めるべきだ、ということだ。

 これが「広島のサッカー」なのだから。守備が整備されていない以上、攻め勝ち、ポゼッションで圧倒し、得点を積み重ねる以外に広島の勝利はない。「接戦」になったとき、こういう風に逆転されてしまうのは「織り込み済み」と考えねばならない。

 J1におけるこのチームの趨勢は、ほぼ大敗か大勝に分かれるだろう。ポゼッションを握って相手を90分振り回し、思う存分シュートの雨あられを降らせて大勝するか。今日のように1トップ2シャドーを押さえ込まれ、DFラインへのプレスをいなせず、個々の信頼関係が崩れた結果「安い失点」を喫するか、だ。

 負けるときはこういう試合になる。広島サポが受け入れねばならない敗戦は、「こういう試合」なのだ。派手なやられ方をしたが、落ち込んでいるヒマはない。さっさと事後策を練るべきだ。

 今更「このサッカー」から降りることはできない。チームもフロントもサポーターも、「このサッカー」を支持し、彼らをJ1の舞台に押し上げたはずなのだから。

 敗因分析は必要だが、それは「勝利」のためになされねばならない。僕は、次節以降「大勝し続けるため」の文章を書こうと思う。

 まずは、大宮戦の敗因分析から。


<大宮戦、なぜ敗れたのか>
 セットプレーの守備の拙さ、モメンタムを心得ない焦ったパス回し、ストヤノフの縦に蹴りすぎる悪癖、GKへのバックパスの少なさ、槙野のつまらないPK失敗、3度に渡る決定機を逃した佐藤寿人の不振……細かいポイントを挙げればキリがない。

 そして、守備のことをあげつらうのはもっと意味がない。そんなことは「織り込み済み」のはずだからだ。

 僕は、1週間後に向けて修正すべきはただ1つ、「ポゼッションを高めること」以外にありえないと考える。守備は短期間には立て直せないが、3年間貫いてきたポゼッションはすぐに修正可能だからだ。


■前半、シャドーの位置が前目すぎた
⇒プレッシャーを掛けにくる相手の3枚、石原・藤田・新井らに対して、こちらはJ2でやっていたとおりストヤノフ、カズ、森脇、槙野がバックラインでパスを回した。

 しかし大宮はラインを押し上げ、スリーラインをコンパクトに保ち、バイタルをしっかりケア。ボランチとDFラインの5枚〜6枚で1トップの佐藤寿人、2シャドーの柏木、高萩をはさみ込み、びっちりマークをした。結果、広島は縦パスを入れる場所がなくなる。これが、攻めあぐねの直接の原因だった。

 ここで考えうる方法は、まずはシャドーの位置を修正すること。前半はやや1トップ2シャドーが前がかりになっており、ビルドアップ時の数的不利が解消されなかった。シャドーの1枚が降りてきてクサビを受け、相手ブロックを引きつけることで、打開することが可能になる。ここは、後半ある程度修正されたと思う。

 より深刻なのはこちらだろう。

ストヤノフが縦に急ぎ過ぎた
⇒明白なことだが、この日のストヤノフは縦に蹴り急ぐシーンが目立った。

 そのうち、本当に「パスコースがなかった」シーンはそれほどない。広島のサッカーには、「GKというリベロ」が戦術のキーとして存在している。、GKへのパスコースが寸断されるというのはかなりのレアケースだし、この試合ではほぼゼロだったと思う。

 しかしストヤノフは、森脇や槙野がフリーの際でも、GK佐藤昭が「空いている」際でもボールを入れなかった。それどころか、攻め急ぐ必要がないシーンでムリに縦パスを入れ、何度も大宮にボールを渡してしまった。

 2失点目は、ストヤノフパスミスからカウンターを受けたものだった。勝っている状況にも関わらず、ストヤノフは「ボールを回す」のではなく「フィニッシュ」を急いだ。そして失点に直結するミスを犯した。

 この2失点目は、チームに大きくのしかかった。失点の前には柏木らが決定機を迎えていたし、大宮は相当ショックを受けていた。モメンタムは明らかに広島に傾いており、1点を奪えば3−1、4−1でフィニッシュすることもありえた。

 冒頭に「大勝か、大敗か」と書いた理由である。結果からみれば守備崩壊なのだが、決めるべきシーンで決め、つまらないミスをせず、ポゼッションを握ってJ2で行っていた通りに相手をいなし、疲弊させていれば。3−1とさえしていれば、大宮は後半まさに“手も足も出ないで”広島に敗れた可能性があった。

 そうなるチャンスを自ら手放し、逆に手痛い反撃を食らった。自滅以外の何物でもないのである。

■信頼関係を取り戻せ!
 正直、この敗戦は厳しい。

 2連勝でカシマスタジアムに乗り込みたかったし、そのチャンスは大いにあった。横浜FM戦で得た勢いは削がれ、ひょっとすると何人かの選手は自信を失ったかもしれない。

 鹿島は決して万全の状態ではなく、彼らは再びACLをはさんで22日に臨む。鹿島を叩く上では千載一遇のチャンスに変わりはない。勢いに乗った状態でカシマに乗り込みたかったが、もう言っても仕方がないことだ。

 鹿島戦に向けてやるべきことは、「信頼関係の回復」以外にない。ストヤノフが蹴りすぎること、バックパスを送らないことは、周囲への信頼がないからだ。彼の論理としては正しいのかもしれないし、ストヤノフだけを一概には責められない。

 しかし、ストヤノフがGK佐藤昭を信用せず、槙野や森脇を信用せず、相手DFラインと駆け引きするミキッチばかり見るようなサッカーは「広島のサッカー」ではない。結果的にだが、彼のやっていることは戦術を無視した独りよがりだ。

 ストヤノフの両足から繰り出されるロングパスは、広島のサッカーにおける「アクセント」として絶大な武器となる。しかし、広島の主砲は「ショートパスにおけるボール支配」「相手ブロックをおびき寄せて局面打開」なのだから、まずはそこに集中せねばならない。

 そのためには、GK佐藤昭、森脇、槙野、ストヤノフ、それに森崎和幸の5選手でもう一度信頼関係の再構築が必要だろう。どのような方法であれ、それができさえすれば広島は鹿島相手だろうと主導権を握れるはずだ。

 というより、「できなければ、大宮戦よりはるかにひどい結果が待っている」というべきだろうか。調子が悪いとはいえ、J1王者を相手にハンパな真似は許されない。